約 1,077,073 件
https://w.atwiki.jp/familiar_spirit/pages/1319.html
一人! 使い魔が征く! 人気の無い寺院の中、承太郎はルイズを抱き上げて振り返ると、 いつの間にか扉の前に立っていた個性的な髪型の男に気づく。 「承太郎さん……これからどうする気っスか? 七万の軍隊を足止めしないと、連合軍は壊滅確定っスよー」 「仗助か……。丁度いいところに来た、頼みがある」 「おッ! さっすが承太郎さん! 何か『策』があるんスねッ!」 もう勝利したも同然とばかりに楽観的な笑みを浮かべる仗助を連れて、 承太郎はルイズをお姫様抱っこしたまま寺院から出た。 そこには仗助の風竜アズーロが待っていた。 「仗助……。お前はルイズを連れて、ギーシュかシエスタのいる艦に戻れ」 「……援軍を呼ぶんスか? それはちょっと難しいんじゃ……」 「アルビオン軍は……俺一人で足止めする」 「……は?」 仗助は耳を疑い、顔をしかめた。 「すいません……ちょっと言葉の意味が理解できなかったっつ~か……」 「聞こえなかったのか? アルビオン軍は俺一人で足止めする。 お前はルイズを連れて艦隊に帰って、一緒に逃げるんだな……」 あまりにもプッツンした発言に仗助はめまいさえ起こした。 あの冷静で判断力に優れる承太郎さんが、なぜ自殺まがいの戦いに挑むのか? 「いったいどうしちまったんスか!? そんな無謀なセリフ、承太郎さんのキャラクターじゃないっスよ~!! 無敵のスタープラチナとガンダールヴでも、敵は七万、絶対殺されるっス!」 「何を勘違いしてやがる、俺はおめーの知ってる空条承太郎じゃあねえ。 お前と同じ高校生で、ガンダールヴの承太郎だ」 承太郎はルイズを仗助に向かって差し出すが、仗助は受け取ろうとしない。 「冗談じゃないっスよ~! 例え十七歳の承太郎さんでも、 俺にとっては誰よりも頼りになって尊敬できる人なんスから!」 拒絶の意を示した仗助を見ると、承太郎は無言でルイズを地面に寝かせた。 「俺は馬で行く。ルイズをここに置いてくっつーなら勝手にしな」 「……グレート。他に言葉が出ねー……」 「あばよ、仗助」 馬に乗るべく承太郎が仗助に背中を見せた瞬間、仗助はスタンドを出し殴りかかった。 「ドラァッ!」 間一髪、承太郎は半身を引いて拳を回避したが、 学ランにつけてある鎖を根元近くから真っ二つに割った。 ジャラジャラと音を立てて鎖が地面に落ちると、承太郎は鋭い双眸を仗助に向ける。 「力ずくで止めるつもりなら……相手になるぜ」 しかし仗助は両手を上げて降参の合図。 「いえ、奇襲が失敗した今……スタープラチナに肉弾戦で勝てるとは思ってないっス。 ルイズさんは責任持って艦に送り届けますから……死なないでくださいよ」 身長の低いルイズを小脇に抱えながら、仗助はちぎれた鎖を拾ってポケットに放り込む。 「それじゃ、ルイズさんは責任を持って預からせていただきます」 「……適当に引っ掻き回したら逃げるから安心しな。 おめーとは日本に帰ってから、改めて話をしたいからな……」 承太郎は馬に、仗助はルイズを抱えて風竜に。 承太郎は戦場へ、仗助は撤退する艦へ。 逆方向へと分かれ、向かっていった。 地図に記された小高い丘の上、朝日が暗闇に光を与えていった。 視界が開け、眼下にはタルブの村のような美しい草原が広がっている。 さらにその向こう、朝もやの中からアルビオンの主力軍が進行してきた。 承太郎は馬を逃がすと、デルフリンガーを抜く。 「意外だねぇ。相棒は精神を操作されてるってのが嫌だったんだろ? なのに何でこんな事するのかね。相棒は強いのは認めるけど、間違いなく死ぬぜ」 「……だろうな。だが、俺は仲間を二度と死なせたくない……。 その気持ちだけは、ルーンに操られたものじゃあない俺の意志だと確信を持てる」 「その確信のために戦うのかね。いや、立派、お見事。 そんな相棒のために俺がとっておきのアドバイスしてやる。 真っ直ぐ突っ込め。こうなったらどっから行っても同じだからよ。 そんでもって指揮官狙いまくれ、頭をやれば身体は混乱するし足も止まる。 一日ぐらいの時間は稼げるかもよ。時間を止めながらなら何とかなるだろ」 「……行くぜッ!」 「おうッ!」 朝もやをついて突っ込む承太郎に最初に気づいたのは前衛の捜索騎兵隊ではなく、 後続の銃兵を指揮する士官の使い魔のフクロウだった。 「……何、一人だと?」 敵が一人である事をいぶかしく思いながらも、馬のような速力に驚き、 銃兵に弾込めを命じた。その間に承太郎は捜索騎兵隊を斬り飛ばす。 あまりの速さに騎兵隊はタイミングを見誤り、一方的に馬から落とされてしまった。 さらに銃兵が弾を装填する前に仕官を発見すると、杖を持っている手を剣で切断。 慌てて銃兵達が承太郎に向けて発砲するが、 気がついたら承太郎は土煙を残して消え去っていた。 使い魔を使役し上空から承太郎の姿を見ていたメイジ達は、 承太郎が物凄い勢いで空に跳び上がった事に驚愕した。 「オラァッ!」 腕からわずかにスタープラチナの腕だけを浮かせた承太郎は、 銃弾を指で弾き四方八方へと飛ばして使い魔と思われる鳥を次々に撃ち落とす。 承太郎が地面に着地するタイミングを見計らって他のメイジが魔法を放つも、 それらはすべてデルフリンガーの口に吸い込まれて消えてしまう。 着地した承太郎は一足飛びに騎兵隊の隊長へ肉薄してスタープラチナの拳を叩き込んだ。 承太郎は時に跳び、時に駆け、敵軍を翻弄する。 単騎であったため同士討ちを避けるべく銃や投射武器の発砲が禁止され、 メイジ以外の兵隊はガンダールヴの承太郎相手に接近戦をしいられた。 だが兵士達は平民には見えないスタンドの拳の弾幕により四方八方へ吹っ飛ばされる。 吹っ飛んだ兵士の重量を受け、他の兵士にまで被害が及ぶ中、 メイジ達は次々に承太郎へと魔法を放った。 さすがにガンダールヴの速度を持ってしても受け切れない数だが、 スタープラチナの髪の毛が逆立つと同時にそれらは空中で停止した。 「スタープラチナ・ザ・ワールド!!」 氷の矢、炎の球、風の刃、すべてが静止した中、承太郎はスタープラチナで地面を殴る。 「オラオラオラオラオラオラオラオラッ!!」 あっという間に承太郎の周囲はめくり返された土で覆われ姿を隠すと、 地面すれすれを駆け抜けながら銃弾を指で弾き飛ばし、ターゲットに向かって疾駆する。 時が動き出した直後、突然現れた土の幕に魔法が命中する。中身は当然空っぽだ。 承太郎を見失ったメイジ達は慌ててその姿を探すが、その身体に突然銃弾が命中する。 時間を止めている間に承太郎が放ったものだ。 当然銃声など無く、メイジ達は何にやられたのかすら理解せぬまま倒れた。 「オオラァッ!」 マンティコアにまたがった偉そうな騎士を発見した承太郎は、 デルフリンガーを横薙ぎにして周囲にいた兵士を吹っ飛ばす。 騎士はマンティコアを承太郎にけしかけるが、 鋭い牙を生やした口がスタープラチナのアッパーで無理矢理閉じられ、あごが砕ける。 マンティコアから落っこちた騎士の足をデルフリンガーで深く斬りつけた承太郎は、 続いて槍ぶすまを作っている部隊へと跳躍した。 槍ぶすまを飛び越えられ、指揮官のメイジは咄嗟に詠唱するが間に合わず、 スタープラチナで顔面を踏みつけられて昏倒、顔を足場にして承太郎は再び跳躍した。 弓兵隊を指揮していた若い士官は慌てていたため、誤って弓の発射を命じてしまった。 上空から舞い降りる承太郎は自分に命中する矢だけを狙い、 スタープラチナの拳の弾幕で撃ち落とす。はずれた弓は味方に辺り同士討ちが始まった。 お礼とばかりに承太郎は銃弾を指で弾き飛ばし、弓兵隊の仕官の肩を射抜く。 着地した承太郎は、近くにいた兵士達を剣で薙ぎ払った。ただし峰を使ってだ。 「相棒! さっきから致命傷を与えねーように戦ってねーか!?」 「俺の敵はクロムウェルとレコン・キスタだ! アルビオン軍じゃねーぜ!」 まるで流星のように承太郎は戦場を駆け抜ける。 近距離をデルフリンガー、中距離をスタープラチナ、遠距離を銃弾で攻撃し、 敵軍の放つ魔法を回避しきれない状況に陥った時のみ時間を止める。 突然消え、突然現れ、あるいは気がついたら倒されていたりと、 アルビオン軍は時間の経過に比例して混乱を高めていった。 その混乱が、歯車を狂わせる。 完全に指揮を失ったメイジ達が、連携も何もない滅茶苦茶な魔法を放った。 時間停止は、一度行うと再び行うためには数呼吸分の休息が必要だ。 だから時間停止せずに対処できる攻撃はできる限りスタンドとデルフリンガーで防ぐ。 そのようにして承太郎は斜め前方から飛んできた無数の氷の槍を拳の弾幕で叩き落し、 左側から飛んできた巨大な炎の球、恐らく火の三乗くらいの威力だろう、 それをデルフリンガーの口で素早く吸い込ませる。 直後、右の脇腹が突然裂けた。 「な……にィッ!?」 隊列を乱してしまい偶然承太郎の背後を取ったメイジが、エア・カッターを放ったのだ。 承太郎、スタープラチナ、デルフリンガー、三つの目を持つ彼等が、 戦場の中で偶然生んでしまった死角にそのメイジはいたのだ。 「今だ! やれ!」 メイジの一群の中から号令が聞こえ、メイジ達が次々と魔法を放つ。 氷の粒を孕んだ風が左足を切り刻み、スタープラチナの右肩を火球が焼く。 「くっ……スタープラチナ・ザ・ワールド!!」 咄嗟に時を止め、先程号令をかけた男へと向かって承太郎は跳び上がる。 あれほどの数のメイジに守られている男、恐らくこの大軍を率いる将と見た。 ならばそいつさえ倒せば軍の混乱は頂点を極めるだろう、後は逃げるだけだ。 しかし負傷のためか、連続して時を止めて戦った疲労のせいか、 敵大将を射程圏内に納めるよりも早く時間停止は解除される。 突然前方から飛んで迫ってくる承太郎の姿に気づいた将軍は、素早く杖を抜いて詠唱。 妨害すべくスタープラチナで銃弾を一発弾き飛ばすが、 将軍はその弾道を見切ると杖で叩き落すした。 承太郎と将軍の距離が詰まる。 「スタープラチナ!」 「エア・カッター!」 風の刃がスタープラチナの強靭な肉体を切り裂いていく、 それでも承太郎は止まらず将軍に拳をマシンガンのように浴びせると、 着地に失敗してその場に転がった。 将軍も吹っ飛ばされ気絶してしまったため、連合軍撤退までの時間稼ぎは成功した。 が、この場で戦闘不能に陥った承太郎の末路はたったひとつしかなかった。 「ぐっ……」 学ランを血でにじませる承太郎に、将軍の周囲を固めていたメイジ達が杖を向ける。 (これ……までか……) デルフリンガーを握っていても、身体の痛みは引かないし力も湧いてこない。 「もう駄目だね。相棒、さよなら」 別れを告げるデルフリンガー、メイジ達の詠唱が終わるのを待つ承太郎。 その時、ほんのわずか……誰も気づかない程度だが、承太郎達の身体に薄い影が落ちた。
https://w.atwiki.jp/familiar_spirit/pages/1524.html
自分の使い魔をルイズが追いかけていった暫く後、彼女は使い魔を連れて戻って来た。 いや、正確には『抱きかかえて』戻って来たのだ。 疲れきったのか、犬の足が力無くぷらぷらと揺れている。 ぐったりとした表情で、横を向いた口元からだらしなく舌が出ていた。 「ルイズ、おまえ。使い魔が倒れるまで追いかけ回したのか?」 マリコルヌのその言葉に収まりつつあった笑い声が再び広がる。 ルイズは黙ったまま僅かに唸り声のような声をあげるのみ。 言い返す言葉も無いというよりも、そもそも気力が無い。 コントラクト・サーヴァントの最中にも顔を舐められ、使い魔同様彼女も心身ともに疲れきっていた。 「ふむ、どうやらコントラクト・サーヴァントは無事終了したようですな」 抱きかかえた使い魔の前足をひょいと掴み、コルベールが刻まれたルーンを確認する。 これで最大の不安要素であったルイズを含め生徒全員、使い魔の召喚は終了した。 無事に終わった事に胸を撫で下ろし、始祖ブリミルに感謝を捧げる。 しかし、授業の時間も(主にルイズと使い魔の追いかけっこの所為で)押している。 まだ生徒達の悪乗りも覚めやらないが、ここで威厳を見せねば教師ではない。 「さぁ皆さん、教室に戻りますぞ!」 ぱんぱんと手を叩く音に合わせて返事をした生徒達が次々と空を舞う。 残されるルイズとその使い魔。 彼女は魔法が使えない。なら歩いて教室に戻るしかないのだが今の様子では厳しいだろう。 疲労困憊の彼女達にコルベールは手を貸そうとしたが、ルイズはそれを丁重に断る。 自分だけ特別扱いを受ける訳にはいかない、それが理由だった。 己に厳しくあろうとする彼女らしい発言だ。 “ここで手を貸せば彼女の誇りが傷つく” そう判断したコルベールは『遅刻はしないように』と付け加えて去って行った。 「いい? ちゃんと付いてくるのよ」 使い魔をその場に置いてルイズは歩き出す。 だが数歩歩いたところで立ち止まった。 後ろから使い魔が付いてくる気配が無かったのだ。 振り返ると、置いた場所で横たわる使い魔の姿。 しかも、寝息を立て完全に睡魔に身を委ねていた。 「ちょっと! なに寝てるのよ!?」 戻って身体を揺さぶってみても起きる気配は無い。 そうなってしまうのも無理もない。 命懸けの逃走で疲弊した上に、残った体力も今ので使い果たしたのだ。 身体を動かしていた緊張の糸は完全に途切れ、彼は母親に抱かれた赤子のような安心感に包まれていた。 自分を置いてすやすや寝入ってしまった使い魔を見て、ルイズは呆れ果てた。 ルイズに彼の心境は分からない。だから『遊ぶだけ遊んで疲れたから寝てしまった』と思っていた。 「起きないと置いていくわよ? いいの? ホントに置いていくんだからっ!」 叫んだところで意味は無い。使い魔の意識は既に夢の中だ。 返答さえしない使い魔に怒りが込み上げてくる。 こっちだって疲れてるのに、抱っこして運ぶなんて冗談じゃない。 第一、疲れている理由だってアンタのせいだし。 それにご主人様の言う事、ちっとも聞かないし。 でも、外に出して風邪でも引かれたら困るのは私だし、使い魔の管理も主の仕事……よね。 彼女は心の中でそう愚痴りながら、振り返らずに教室へと歩む。 その小さな腕の中に自らの使い魔を抱えたまま…… 「ふぅ……前途多難だわ」 馬小屋から貰ってきた藁の上に使い魔を寝かせ、自分もベッドに横になる。 大きく分けて使い魔には三つの役割がある。 一つ、使い魔には主人の目となり耳となる。 その為の能力が使い魔には与えられる……筈なんだけど、何故か私には出来ない。 二つ、主人の求める物(主に秘薬など)を見つけてくる。 これは犬なんだから出来そうな気はするんだけど本人にやる気があるかどうか。 三つ、使い魔は主人の身を敵から守る。 ……アイツが勝てるような敵って何よ? 野良猫? 害虫? 溜息が洩れる。 主人に手間ばかり掛けて出来る事はゼロの駄犬。 『ゼロのルイズ』に『ゼロの使い魔』。 いいコンビだと『風邪っぴき』のマリコルヌならそう囃し立てるだろう。 ……ダメ、諦めちゃダメよルイズ。 今できる事がゼロなら、これから一つずつ覚えていけばいいじゃない。 そうだわ。明日から徹底的に訓練して名犬にすればいい。 小姉さまが犬に芸を教える姿を私は見ている。 それを真似すれば私にだって出来るはず! “使い魔を名犬に育てる” 固い誓いを胸に毛布の中に潜り込み、睡眠を取って明日に備える。 真似をするついでに胸も大きくならないかなぁ、と無茶な妄想と共に瞼を閉じた。 「いい? ちゃんと取ってくるのよ」 使い魔の前で木の棒を振り気を引いたところで遠くに放り投げる。 果たして取りにいくのか、あるいは棒を咥えたまま戻ってこないかもしれない。 そんな心配を余所に、使い魔は一目散に駆け出しそれを咥えて戻って来た。 「やればできるじゃないっ!」 心から溢れだす満面の笑み。 嬉しくなって使い魔の頭を撫でる。 ルイズにとっては訓練でも、彼にとっては遊びだった。 だから何故ルイズが喜んでいるのかは分からなかったが、 それでも今のルイズの笑顔は嫌いではなかった。 ……いや、むしろ好きだった。 あの笑顔があれば、いつまで続けても飽きる事はないだろう。 「見ろよ。ルイズのヤツ、使い魔と遊んでるぜ」 「いい気なもんだよな。名門貴族だからって」 早朝から始められた訓練も、周りから見れば遊びだった。 主と使い魔は一心同体。 今、彼女たちがやっている遊戯など誰でも出来る。 この光景は『ルイズの使い魔はそんな事もできないのか』と評価を貶めるだけ。 それでも彼女達は構わない。周りの評価などどうでもいい。 どんなに惨めでも必死に足掻く姿を恥じる必要などない。 その真意を理解できる者は多くはない。 数少ない彼女の理解者が彼女に声を掛ける。 「面白そうな事してるじゃない。ルイズ」 「何の用? 私、こう見えて忙しいんだけど」 「私には遊んでるようにしか見えないんだけど。で、これを投げればいいの?」 「ふん。アンタが投げたって取りになんていかな……何で取りに行ってんのよアンタ!」 突然の主人の激昂に驚き、咥えた棒を取り落とす。 ヴァリエール家とツェルプストー家の長きに渡る因縁を召喚されたばかりの犬に理解しろとは無理な話だ。 使い魔は理不尽な怒りに脅えるばかり。 それをキュルケが、よしよしと頭を撫で落ち着かせる。 ……傍から見れば、どちらが飼い主か分からない構図だ。 「授業」 そんな二人の間にタバサが割って入る。 見れば、他の生徒達もちらほらと教室に向かっている様子が窺える。 「よし、じゃあ訓練はここまで。私達も教室に行くわよ」 「はいはい」 教室に向かう三人を見送り、彼は辺りを見回す。 まだ、ここへ来て二日。世界は果てしなく広い。 他に何があるのか、期待に胸を膨らませて冒険に旅立つ…! 「アンタも来るのよ!」 走り出そうとした矢先、首根っこをあっさりと掴まれ主人に引っ立てられる。 ざんねん!! 彼の冒険は、ここでおわってしまった!! 「このように魔法は四大系統に分かれており…」 ぴすぴすと鼻を鳴らしながら抗議するバカ犬を無視して羽ペンを走らせる。 どうやら訓練が終わったら遊びに行けると思っていたらしく不機嫌この上ない。 しかし授業を邪魔する様子もないし、このまま放置しておこうと決めた直後。 「では貴方、そこの貴方」 呼びかけられた声に気付き、顔を上げる。 壇上で新任のミセス・シュヴルーズが私を指している。 「お名前は?」 「ルイズ。ルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエールです」 「ではミス・ルイズ。錬金でこの石を金属に変えてください」 錬金の実演に壇上へと向かう私にクラスメイト達の怯えた視線が集まる。 引き止めるキュルケを無視し壇上へと立つ。 ある者は机の下に隠れ、ある者は少しでも離れようと席の端に移動し、 そして、ある者はそそくさと教室から退出……ってタバサじゃないっ! いいわ、見ていなさい。 昨日までの私とは違うんだから。 使い魔がちょっとアレだけど、サモン・サーヴァントには成功している。 だからもうゼロじゃない。 出来る。出来ると信じれば必ず出来る……! 正直微妙な成功に裏づけされた彼女の自信。 それが彼女の力を最大限にまで引き出す。 ……そして。 周囲に響き渡る爆発音。 天井から降り注ぐ破片に、逃げ惑う生徒達の絶叫。 我先にと逃げ出す生徒達がひしめき合い出口は騒然となる。 使い魔達も飛べるものは皆、窓から逃げ出した。 この場に残っているのは、ルイズを含めた生徒数名と気絶したミセス・シュヴルーズだけ。 それと、何が起こったのか分かってない犬が一匹。 「だから言ったのに! 余計ひどくなってるじゃない!」 「うるさいわねっ! ちょっと失敗しただけでしょ!」 「……まぁ破壊力が上がったって意味では上達したとも言えるかもね」 言い争う二人の間にギーシュが茶々を入れるが完全に蚊帳の外。 睨み合う互いの目から凄まじい電流が飛び散り他の物など視界に入っていないのだ。 出来れば三人に早々に避難してもらいたいのだが、そうもいかないらしい。 かといって女性より先に逃げるのは自分の誇りが傷つく。 やれやれ、と同じくアウト・オブ・眼中仲間の犬と視線を合わせる。 “なるほど。忠誠心は人一倍あるのか” 誰もが口を揃えて駄犬と言うが、どうやらそうでもないらしい。 先の爆発騒ぎで主人より先に逃げる使い魔もいたが、この犬は違うらしい。 ルイズがこの場から離れない以上、逃げるつもりもない。 随分と勇敢な使い魔だ、とギーシュはそう評価した。 ……本人に何が起きたか分からずに、きょとんとしているだけなのだが。 ふとギーシュの脳裏に違和感が走った。 ……いつもより大きな爆音。 それを聞いた生徒達は一目散に逃げ出した。 だが、音に比べて被害があまりにも少なすぎる。 再び降り注ぐ破片。 ギーシュと彼が同時に頭上を見上げる。 瞬間、驚愕に言葉を失った。 ……亀裂の走った天井。 降り注ぐ破片は爆風に巻き上げられたものではない。 今も微かな悲鳴を上げる天井、その瓦礫。 爆発はここではない、上で起きたのだ。 自重により崩落の危険はさらに加速していく。 次々と広がっていく亀裂の下には白熱する二人。 「二人ともケンカを止めるんだッ! そこは危……」 「ギーシュ! アンタはすっこんでなさいっ!」 必死の呼び掛けも一喝され届かない。 仕方ない。レビテーションで無理矢理にでも! ギーシュのその判断よりも早く使い魔は主の元へ駆ける。 壇上へと上り、その場から引き離そうとローブを噛んで力の限り引っ張る。 「ちょっと何するのよ! 離しなさい!」 だが、その行動も理解されなければ無意味。 そして理解した時には遅すぎた。 一際大きな破砕音に全員の視線が頭上に集中する。 刹那、堰を切ったように煉瓦の雨が二人に降り注いだ。 悲鳴と共に二人の姿が砂煙に消えていく。 その光景にギーシュの身体が凍りつく。 二人が飲み込まれるのを黙って見過ごすつもりはなかった。 だが動けなかった。突発的な事故に反応など出来る筈がない。 それでも助けるぐらいの事は出来たんじゃないのか、と唇を強く噛んだ。 「大丈夫」 後悔するギーシュの横をタバサが通り抜ける。 軽く振り上げられた彼女の杖。 立ち込める砂煙がそれに合わせるように払われていく。 開けた視界に浮かぶ二人の無事な姿。 その周囲には二人を避けるようにして煉瓦が散らばっている。 「……死ぬかと思ったわ。ありがとタバサ」 「どういたしまして」 生きるか死ぬかという瀬戸際にあったにも関わらず平然と挨拶を交わす二人。 拍子抜けしてしまうような光景だが、自分には真似出来ない。 真似できないのは度胸だけじゃない。 咄嗟に反応し最善の魔法を選択した判断力。 ただ無口で根暗な少女ぐらいにしか思っていなかったが、 彼女はこういった危機的状況に直面した事があるのだろう。 ……いや、そうであってほしい。 そうでなかったら男としての面目が立たない。 「全くひどい目にあったわ」 「アンタのせいでしょ! アンタの!」 同じく瓦礫を除けながら立ち上がるルイズをキュルケが責め立てる。 無事で何よりだが、元気が有り余ってるのはどうかと思う。 それにしても…… 「凄いな。君の風の魔法は」 「あっちは違う」 「へ?」 返答の意味を理解できずにギーシュが立ち止まる。 それだけ告げるとと少女はさっさとこの場を立ち去ってしまった。 ギーシュに説明できないのも無理はない。 タバサ自身、何が起きたのか分からないのだ。 あの時、確かに旋風の守りで二人を守ろうとした。 一人ならまだしも二人とも守りきれるかは不安だった。 だが、ルイズに届いた煉瓦は一つとしてなかった。 そして彼女の周りに落ちている物を見て驚愕した。 氷のように溶け落ちた天井の残骸。 ルイズの魔法ではない。 キュルケの炎でも降り注ぐ煉瓦を一瞬で溶かすなど不可能だ。 残された可能性は唯一つ。 彼女の脳裏に浮かんだのは、ルイズのローブを噛んだまま眠ってしまった一匹の犬の姿だった…… 戻る< 目次 続く
https://w.atwiki.jp/familiar_spirit/pages/1038.html
春の麗らかな風景に爆発音が響いていた。 爆発音の発信源はルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエール。 彼女は他のクラスメート達や教師が見守る中、サモン・サーヴァントの儀式を行っていたが、爆発ばかり繰り返していた。 その数も既に20を裕に越えており、始めは冷やかしていたクラスメート達も、流石に飽き飽きしていた。 いつまでたっても成功しないのを見て、U字禿の教師コルベールは「次で成功しなかったら良くて留年、最悪の場合退学になりますぞ」とルイズに脅すように言った。 「五つの力を司るペンタゴン。我の運命に従いし使い魔を召喚せよ。」 ルイズはありったけの魔力をこめ、いつになく真剣な面持ちで唱えた。 しかし、ルイズの思いも虚しくまた杖を向けた先で爆発が起こった。 それを見た全員がまた失敗かと思った。が、もくもくと土煙が立ち込める中に爆発する前には無かったはずの『何か』があった。 ルイズはそれに気が付くとゆっくりと警戒しながらその何かに近づいていき、それを手にとってみた。 「これは…『矢』?」 爆発の跡にあったのは一本の古びた矢だった。鏃は金属でなく石で作られ刃の部分は鋭く出来ていたが、その装飾からして実戦で使うものではないようだ。 だが、彼女にとって生物でない物に用はない。サモン・サーヴァントは使い魔となる生物を呼び出す儀式。明らかに無機質な矢などお呼びでないのだ。 ルイズは溜め息をついた。爆発ばかり繰り返し、簡単なコモンマジックどころかまともに使い魔すら召喚出来ない『ゼロ』…自分の将来を憂え今すぐ泣き出したくなったその時、 サクサクと草原を誰かが歩く音がした。 クラスメートの誰かが自分を慰めに来たのか、それともコルベールが退学を宣告しに来たのか。ルイズはいずれにせよ振り向く気になれなかった。 だが、その音の正体がどちらとも違う事がクラスメートが次々にしゃべった事で明らかになった。 「おい、何か黒いのがいるぞ!」 「遂に成功したの!?やったじゃないルイズ!」 えっ!?と驚きルイズが振り向くと黒い人らしき「物」がこちらに背を向け歩いていた。 カウボーイハットの様な帽子を被り、肩にはドーナッツ形の飾りを幾つも付けている。 腰にはゆるゆるとしたベルト、更に乗馬用のブーツみたいな靴を履いている。 だがその姿はどこまでも漆黒であり、生物と非生物の間のような存在感を出していた。 ルイズは成功してこれを呼び出したのにこれに対し何とも言えない不気味さを感じた。 こいつは何かヤバイ気がする…契約をすべきなんだろうか… そう思った時、既に異変は始まっていた。 いきなり周りにいたクラスメート達が何の前触れも無くその場で倒れると眠りだしたのだ。彼らの使い魔達も、である。 その異常な光景にルイズは呆然としたが、ふと気付いた。自分の手からいつの間にか矢が地面に落ちていたのだ。 そして矢は斜面でもないのにその漆黒の『何か』の元まで転がって行った。漆黒の『何か』は立ち止まり矢を拾いあげると再び歩き出した。 「ちょ、ちょっと!これはあんたの…」 そこまで言うといきなり足に力が入らなくなり、ストンと地面に腰を落としてしまった。 「な…た…立てな……」 そして意識が朦朧とし、他のクラスメートやコルベール同様地面に横たわり、眠ってしまった。 それでも漆黒の『何か』…前の世界で『鎮魂歌』と呼ばれたそれは城の方へとゆっくり歩いて行った… シトシト… 気付いたら夕方になり小雨が降り出していた。 ルイズはいつの間にか自分が寝てしまった事を思い出し、起き上がろうとした。 しかし、地面に手を付けた瞬間グラリとした。なにかおかしい…身体が『重い』…いやサイズに『合わない』感じがする。 「何が起きたの」 自分の周りを取り囲んでいた中にいたはずのキュルケがいつの間にか近くにいた。 「分からない…いつの間にか寝ちゃって…」 ルイズが答える。視覚がまだぼんやりしていた。 「ルイズの使い魔のせい?」 キュルケが淡々とした感情の起伏の無いしゃべり方をしているのにルイズは違和感を覚えた。キュルケの普段のしゃべり方はこんなのじゃない… 「し、しし知らないわよ!私だって何がなんだか…」 「私?」 キュルケが首を傾げた。ルイズはますます違和感を覚え、尋ねてみた。 「あんた…本当にキュルケ?」 その問いにキュルケは首を横に振ることで答えた。 「冗談はよしてよ!あなた、どう見たって…」 そこではっとした。自分の背が明らかに延びていたのだ。手もよく見てみたら成人男性のような… もしかして!と思い、頭に手をやるとそこには無かった。自分のトレードマークとも言えるものが! 「無い!あたしの髪が無い!」 「元々」 キュルケが突っ込んだ時、「うぅ…」 また近くでうめき声が上がった。キュルケの隣で寝ていたタバサだった。 「何なのよ…いきなり眠くなって…」 タバサが起き上がってキュルケを見た。キュルケも起きたタバサを見た。 「「………」」 二人は五秒ほど沈黙した後、 「きゃああああああああ!」 タバサ、いやタバサの中のキュルケが絶叫した。キュルケの中のタバサも驚いて目を丸くしている。 だが、彼女達よりショックを受けた人達がいた。 ルイズは頭に髪が無いので気付いた。辺りを見渡すとすぐに見つけた。今にも起き上がろうとしている自分の身体を! その自分の身体も自分を見た。 「いやぁぁぁぁぁぁ!」 「うぉぉぉぉ何事ぉぉぉ!?」 両者共にキュルケより遥かに大きな声で絶叫した。 しばらくして心と状況の整理が出来た。 まず、どういう訳か分からないが、魂が入れ代わったということ。 しかもほとんどが使い魔と入れ代わったらしく、話しかけても全然通じなかった。例外は四人の他、ギーシュとマリコルヌだけであった。 次に、これは仮説だが、この現象はルイズが呼び出した使い魔が引き起こした物だということ。 そして最後に、得意魔法等は魂と一緒についてきた。 ということである。 「困りましたぞぉぉ」 ルイズの中のコルベールが頭を抱える。頭の上が豊かなことや若返ったのは嬉しいらしいが、そんなことを言っている場合では無い。 これがもしハルキゲニア中に広まったら大変な事になる。 しかしその元凶がどこに行ったのかも、どうやれば元に戻るかも分からなかった。 焦ってばかりで役に立たない教師を尻目にキュルケとタバサはいち早く動き出した。 「黒い人のようなのよ。捜して来て!」 キュルケはシルフィードと入れ代わったフレイムに命令した。 「きゅるきゅる」 フレイムは慣れない様子で飛び上がり、辺りを旋回しだした。 「森の中。」 タバサもシルフィードに探索するよう命じた。 「きゅい!」 シルフィードは森の中に入って行った。 10分ぐらいしてフレイムが本塔の近くでレクイエムを発見した。 キュルケはフレイムに足止めを頼みつつ、六人はレクイエムの元へと急いだ。(当然だが、マリコルヌと入れ代わったギーシュはおいてけぼりだった。) To Be Continued...
https://w.atwiki.jp/familiar_spirit/pages/1146.html
「…うぐぇあ…気持ち悪い……二日酔いか…?」 ポルナレフはソファから身を起こすと、よろよろと立ち上がった。 「お、ようやくお目覚めか相棒。」 「ん…ああ…あ?」 ポルナレフが首を傾げる。 「いつの間に亀の中に戻った?確かシエスタと酒を飲んでて…?」 デルフがカタカタ震え出した。 「どうした?」 「な、なななななんでもないぜ相棒。そ、そそれより早くしねーと娘っ子にまた亀取り上げられるぜ!」 「あ、ああ。」 ポルナレフはデルフを掴み取った。 「え、あ、相棒!?」 「昨日は迷惑かけたしな。それにまあなんだ。レイピアは持ち運びがな…」 相棒…!とデルフは涙した。目なんか無いけど。 (あ、あの犬ゥゥゥゥ!!) 私は亀の目の前でポルナレフが出て来るのをいまかいまかと待っていた。 (ダンス誘ってやったのに終わったらすぐに御主人様を無視してメイドと逢引ですってぇぇぇ) ちなみに昨晩の騒動の後、水のメイジによる治療を受けられず応急処置しか受けれなかった(今日の内に治癒魔法を受けに行くが。)ため、左腕骨折に加え、頭に包帯、身体のあらゆる箇所にガーゼが貼られている。いわゆる『名誉の負傷』って奴だ。 (何が「俺は帰らなければならない。だが、それまではお前の使い魔だぜ。」よ!思いっきり違う娘に着いていってんじゃない!) ポルナレフの自分に対する態度が全然気に喰わなかった。フーケの時も私を差し置いて他の二人と共に退却を提案した。 それでも見捨てず助けてくれたはいいが、御主人様である私と踊った後すぐに違う女、それもツェルプストーじゃないだけマシだが、メイド、すなわち平民と飲みだしたのである。 貴族である自分が誘われず何故あの平民が誘われなければならないのか(誘ってないbyポルナレフ)そのことが無性に腹が立った。 しかもその平民とキスをしようとしたのである。これには完全に頭に来た。別にあいつが好きという訳じゃないが、平民ごときに負けたのが悔しかったからだ。 気付いたらテーブルを二つ飛び越え、メイドの後頭部に目掛けて飛び膝蹴りを喰らわしていた。 ゴシカァン!という音と共にメイドがポルナレフと正面衝突した。メイドはゆっくりと立ち上がると、その怒り、羞恥、酒で真っ赤にした顔をこちらに向け、 「いいキックしてるぜッ!このアマッ!」 と挑発してきた。私も負けじと 「かかってきやがれッ!」と挑発仕返した。 その時私はワクワクしていた。メイドの最も強い部分が光り輝いて見えた気がした。 「いくぞ!」「私の方が!」「「最強という事を証明してくれるッ!」」 …今思い返せば最後だけ何かおかしかった気がする。 その後、私とメイドはバルコニーを破壊し尽くすまで闘った。終わった時には私もメイドも満身創痍だったし、私のドレスもメイドの服もボロボロだった。ただ、亀とポルナレフはギーシュがワルキューレを使って助け出していたため無事だった。私はギーシュに感謝した。 「よいしょ」ドゲシャ「ガミャッ!」 私は亀から出て来たポルナレフの頭を踏み付けた。ぐりぐりと。 「や、やめろ小娘ッ!」 「そんなことより御主人様に言うことがあるでしょ?ほら早くしないとどんどん強くなっていくわよ。」 「な、何の事だ!」 「あー、相棒。ひょっとしてあのメイドのことじゃね?」 「メイド…シエスタか?だがシエスタがどうした!?」 「全く、相棒はあれかい?女心が分かんないのかい?」 剣が呆れたように言った。ていうかようやく出番与えられたのね。と、そこに コンコン。 「すいません、入ってもよろしいでしょうか?ミス・ヴァリエール。」 あのメイドがやってきた。 とても歯痒い。何故ポルナレフさんは私の気持ちに気付いてくれないのだろうか? 彼がメイジであるギーシュ様をナイフ一本で倒した時、私は彼に惹かれた。メイジを倒した平民としてでなく、可能性としてでもなく、私のような何の力も持たず服従するしかない一介のメイドの為に命を省みず闘ってくれた『男性』としてだ。 彼は私よりずっと年上だろうから親や周りも反対するだろうが、それでも構わないと思っている。 それほどまでに憧れ、慕っているのに…彼は気付いてくれない。 だから常日頃一緒にいるミス・ヴァリエールが羨ましかった。御主人様と使い魔という関係でも私よりずっと長く彼と一緒にいられるのが羨ましかった。 そしてフリッグの舞踏会で二人が踊っているのを見て、ついに我慢出来なくなった。 私は同僚の子に無理を言って仕事から抜け出し、彼の元に行った。 そして… ここから記憶が無い。ただ起きたら部屋にいて頭痛がしたことからワインを飲んだに違いない。そうだとすると何かやらかしてしまったかもしれない。 そう思うとすぐにメイドの共同部屋を飛び出して謝りに行く事にした。 「ミス・ヴァリエール?いらっしゃいますか?」 「ちょっと待ってなさい。部屋を片付けるから。」 中から返事が返って来た。心なしか怒っているように聞こえる。やっぱり昨日何かやってしまってたんだ。 「あんたの愛する平民が来たわよ。犬。ああ、御主人様の部屋に呼んでまでイチャイチャしたいだなんて、どれだけ性欲あましてるんだか。」 ルイズは見下すように言った。いや、確かにシエスタはいい娘だが、別に愛しては…ってデルフよ、なぜ震えている? 「…何か貴様勘違いしているな?俺はシエスタと恋仲ではない。」 「嘘おっしゃい。だったら何で御主人様の見てる前で逢引したり、今もこうやって来てるじゃない。そんな犬にはお仕置きが…」 酷い言い掛かりだ。両方とも身に覚えが無い。あのギーシュじゃあるまいし、そのような事は絶対にしないはずだ。 「何も聞く気はないようだな…この小娘が…ッ」 「何とでも言いなさい。でも…そうねぇ『私が悪うございました。許してくださいまし、私の美しい美しい御主人様』とでも言ったら許してあげようかしら。」 「いい気になりおって…ッ」 「あー?聞こえないわよ?ほら早く言わないとこんな姿をメイドに見られるわよ?」 ぐりぐり更に踏み付けてきた。こうなったらやるしかない。 「…ゼロの癖に…」 腹に力を込める。 「この期に及んでまだ強がる気?阿呆ねぇ…まったく、おたく阿呆ねぇ…」 「生意気だぞッ!小娘がッ!」 俺は身体を海老のように反らせ、亀の中にあった足でルイズの身体を蹴り飛ばした。対メイジように身体を鍛えといて良かった。 「キャッ!」 ルイズの足が離れた隙に俺は走った。目的は窓。 「チャリオッツッ!」 窓をチャリオッツで切り裂き内側に倒す。外に誰かいたらやばいからな。 窓から飛び出すとデルフを抜いてチャリオッツの剣と共にそのまま壁に当てる。摩擦により落下速度を落とすためだ。 ガリガリと盛大に音を鳴らして地上に降り立つとすぐに走った。行き先は走りながら決めよう、と考えると何かにぶつかった。 「な、こんな所に壁が!?」 「壁じゃない!僕の使い魔のヴェルダンテだ!…ん?その声はポルナレフかい?」 この声…確かどっかで聞いたんだが、誰だっけ? 「えーと…プッチ?」 「違う!ギーシュ!ギーシュ・ド・グラモン!忘れたのかい!?昨日助けてやったというのに…」 「昨日…すまない、全然記憶に無い。昨日何があったんだ?」 「本当に覚えてないのかい?あれほどの惨事を?」 「ああ。シエスタと酒を飲んでる所までは覚えてるんだが…そこからが…」 ああ、とギーシュは天を仰いだ。あれを自分から言えというのか始祖ブリミルよ、とだけ言うと、ギーシュは丁寧に教えてくれた。 「…というわけだ。後は自分で何とかあの二人を抑えたまえ。」 それだけ言うと笑いながら去って行った。 「…デルフ、何故教えなかった?」 「だって恐かったから。」 「…」 「昨日はすいませんでした。ミス・ヴァリエール。」 メイドは入って来るなりいきなりそう言った。 「はあ?」 訳が分からなかったので話を聞いてみると昨日は酒に酔ってたらしく、そのために無礼な事をしてしまったと謝りに来たらしい。別にポルナレフに呼ばれたり、会いに来たという訳では無いみたいだ。 しかも本人いわく自分から一緒に飲もうと誘ったらしい。なんだ、全て私の勘違いじゃないか。また謝らなくちゃ…その前に探さないと! 「シエスタだっけ?頼みがあるの。一緒にポルナレフを探してちょうだい。」 「え?あ、はい!」 私とメイドは学院中を探しだした。 「相棒、何処向かってんだい?」 「厨房だ…あそこならルイズも分かるまい。」 「そんなに上手くいくかねえ?」 厨房までもう少しで着く所で見つかった。 「ミス・ヴァリエール!いました!」 いきなりの大声にギクリとし、後ろを振り向くとこちらを指差すシエスタと猛然とした勢いで突っ込んでくるルイズが見えた。 「ほら行かなかったw。」 「笑うな。」 パチンとデルフを鞘に収めると降伏するつもりで両手を挙げた。自分の直前でルイズが停止する。 「はぁ、はぁ、一体何処に行ったと思ったらこんな所にいたの…」 「ふん。今更何のようだ?何度もいうが俺は…」 「まったく、少しは弁明させなさいよ…」「?」 「あの娘から聞いたわ。あんたは本当に何も悪くなかったようね。」 おいおい今更か。 「だから…あーその…ごめんね?」 「え…ああ。」 正直、此処まで勘違いしやすい主人も考え物だ。簡単な話でも相手の主張を認めないから此処までこんがらがってしまう。だが素直に自らの過ちを認めた時の謝り方は、どこかかわいらしいものがある。娘みたいな感じの、がな。 そんな自分達をシエスタは嫉妬に駆られた目で睨みつけていて、デルフはその視線にまた震えていた。 ああ、明日からがまた不安だ。誰か俺の女難の相を取り除いてくれるスタンド使いの方、待ってます。 To Be Continued...
https://w.atwiki.jp/familiar_spirit/pages/1842.html
「彼をお願い」 タバサの言葉に、シルフィードがその巨大な頭を縦に振る。 「でも大丈夫なの?あなたがいなくても」 ルイズの問いに、タバサが頷く。 「シルフィードなら大丈夫だよ」 育郎の言葉に、シルフィードは前足で自分の胸をたたいて、まかせなさいと 一声きゅいと鳴いた。 晩餐が終わり、いざ帰ろうという時になって、タバサがシルフィードの疲労を 理由に、ヴァリエールの所有する竜で帰りたいと申し出た。シルフィードなら、 一匹でも学院に帰ることが出来ると言うので、ついでに育郎を乗せて学院に戻る という事になったのだ。 「えーっと…お父様、お母様それでは学院に戻りますね」 キュルケたちに続いて、ヴァリエール家の竜にのったルイズが広場に集まった 家族達に声をかける。 「うむ。身体に気をつけてな」 重々しく頷く父。 「先生のいう事はちゃんと聞くんですよ」 「はやく魔法が使えるように、真面目に勉強するのよ」 母と姉の言葉に頷くルイズ。 「ルイズ、今度帰ってくる時は、私もっと元気になってるわ。楽しみにしててね」 「いえ、できればこれ以上元気にならない方が…」 「もう、ルイズったら変なこと言って。ね、お父様」 「え?あ、ああ…うむ…そ、そうだな」 思わず目をそらしてそう答える父親に、なんとも微妙な気分にさせられた ルイズを乗せて、竜は学院に向けて飛び立った。 「はぁ…」 溜息をついて、エレオノーは机の上のグラスに手をとり、中のワインをあおる。 夜もふけ、家の者の大半が寝静まっている時間だというのに、彼女は一人黙々と 酒を飲み続けていた。それはバーガンディ伯爵に婚約を解消させられたから… と言うのは理由の半分である。もう一つの理由のために、彼女はアルコールの 力を借りようとしているのだ。 「………ずっとこうしていてもしょうがないわね」 意を決して立ち上がり、部屋をでて、なるべく足音を立てないように目的の 部屋へと向かう。屋敷の者の大半が寝静まっているとはいえ、衛兵が見回りを しているのだ。エレオノール自身のためにも彼らに見つかるわけにはいかない。 しかしエレオノールは気付かなかった。 道中一度も衛兵を見なかったことの奇妙さに。 「まさかとは思っていたが…」 育郎のために用意した部屋に、エレオノールが入っていく様子を確認した ヴァリエール公爵がうめき声を上げる。 やたらと気位が高いエレオノールが、平民の育郎に対し妙に寛大な態度を とっていた事が気になった公爵は、もしやと思い、こうして部屋の前で 見張っていたのである。 「ぬう…婚約解消させられたからといって自棄になるとは…」 ヴァリエール家の長女が、いくら可愛い妹を病から救った…救った…とにかく 救ったような相手とはいえ、夜半平民の男の部屋に押しかけようとは… 「衛兵を下がらせておいて正解だった…」 もしこんな事が誰かに知れたら大事だと、伯爵は今日ばかりはこの部屋と エレオノールの部屋との間に、衛兵が見回りに来ないように命じていたのである。 なにせ、あれである。 平民に夜這いをかけたぐらいなら、目撃者の口を様々な手段で封じればいいだけ ではあるが、もし断られたところでも見られた日には、さすがのエレオノールも いろいろと危険な領域まで追い詰められるかもしれない。 「いや、まてよ?」 さりげなく酷い事を考えていた公爵があることに気付く。 あの平民は、その医者としての能力だけなら、そこらのメイジが遠く及ばない ものをもっている。なにせヴァリエール家が八方手を尽くして治療法を探した カトレアの身体を、あそこまで…過剰に健康にしたのである。 この国では無理としても、ゲルマニア等の平民でも貴族になれる国なら、十分に 貴族になれるだろう。幸い相手はカトレアを救ったっぽいという実績もある。 それなら申し分ないとまではいかないが、なんとか及第点ではなかろうか? エレオノールの歳は27。 既にいき遅れを通り越して、行かず後家の領域に達しようとしている。 ヴァリエール家の子女たるもの、名家に嫁がねばと思ってはいたが、この際 贅沢は言ってられない状態なのかもしれない。温厚で有名なバーガンディ伯爵 すら耐えられなかったのだ。もうこうなったら平民上がりだろうが、不平を 述べている時ではない。 「ならば後はいつ踏み込むかだな」 例え相手が断っていようが、公爵が出向いて責任を取れと言えば相手は平民、 逆らう事などできないだろう。 「これが…最後のチャンスなのかもしれん…」 どこか遠い目で、娘が入っていった部屋の扉を見つめる公爵であった。 「おや?きつい方の姉ちゃんじゃねえか?おい、おきろよ相棒」 「…エレオノールさん?」 カトレアの相手で(精神的に)疲れていた育郎であったが、デルフの声に すぐに目を覚まし、ドアの前に立つエレオノールを見る。 「あの…エレオノールさん?」 うつむいて黙ったままのエレオノールに、育郎が声をかけるが返事はない。 「こりゃ…あれじゃねえか相棒?」 「あれ?」 不思議な顔をする育郎にデルフが続ける。 「野暮だね相棒。夜中に女が男の部屋を尋ねるってこたぁ夜這い以外に」 その言葉を言い終わる前に、駆けよってデルフを握り締めるエレオノール。 「な、なんだよ姉ちゃん!?」 デルフの声を無視して窓を開け放つ。 「そおおおおりゃああああああああ!!!」 「ちょ何おおおおおおおおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ………」ガン!キュイ! 「はぁ…はぁ…」 「あの、エレオノールさん?」 双月に届けといわんばかりにデルフを全力投球し、肩で息をする エレオノールに、恐る恐る育郎が声をかける。 「その…そういうのは僕にはまだ早」 「違うわよ!貴女に頼みがあるの!」 目をむいて怒鳴るエレオノールに気圧されながらも、どこかほっとした様子の 育郎が問い返す。 「頼み…ですか?」 「…そうよ、カトレアを治療した腕を見込んで、貴方に頼みがあるの」 どうにか呼吸を整え、落ち着きを取り戻したエレオノールが続ける。 「…その前に一つ言っておくけど、このことは他言無用。これは命令よ」 「はぁ、かまいませんけど」 明らかに人に頼む態度ではないが、エレオノールはそんなことを気にもしない。 あまりにも当然という態度に、育郎も不快等と微塵も感じなかったほどだ。 「それで頼みって?ひょっとして誰か知り合いが病気に」 その言葉に首を振るエレオノール。 「違うわよ…その…私の…」 「え?エレオノールさんが病気なんですか!?」 「それも違う…」 「じゃあ一体?」 再び部屋に入ってきた時と同じようにうつむいて黙るエレオノール。 やがてボソボソと小さな声が育郎の耳に届いた。 「私の……………の」 「はい?」 「だから……私の……てほしいの」 「あの、よく聞こえないんですが?」 「だから…その…」 エレオノールは顔を真っ赤にして叫んだ。 「私の胸を大きくして欲しいの!!!」
https://w.atwiki.jp/familiar_spirit/pages/1047.html
前回の内容:中の人が爆発して色々グダグダになった。あと、マリコヌル瀕死 「……オメーらいい加減帰れ」 少々精神的ダメージを負ったが、今日の仕事はまだ終わっていないので続けているのだが… 「あら、まだ宵の口よ?」 「………(ガオン!)」 「主人に内緒でこんな事してたんだから、この代金あんたが払いなさいよ」 プロシュートに酌をさせているキュルケ。料理をひたすら食べているタバサ。何気にゴチ宣言をするルイズがまだ居座っていた。 「あらぁ~~今日はプロシュートちゃんの退職祝いだからタダでいいわよぉ~~~」 『ミ・マドモアゼル』が妙にクネクネしながらズィィィっとプロシュートに擦り寄るが、さっきあんな事されただけに頭押さえながら立ち上がった。 「……飲む?」 タバサが例の水筒から注がれた物が入ったグラスを差し出す。 「……ああ」 いい加減、頭とか胃とか痛くなってきたので水分補給しとこうと思いそれを取り水を飲むように一気に口に入れた瞬間…動きが止まった。 タバサはその様子をジーっと見ているがプロシュートが3/4ぐらい減ったグラスから口を離し、何時もの冷静な顔でグラスを返すと店の奥の方に消えていった。 「…タバサ、それなに?」 「はしばみ茶の試作品」 あれで茶だったのかと二人が同時に突っ込むが、意外に反応の薄かったプロシュートを見て少し味が気になった。 「味見したの…?」 無言で首を横に振るタバサを見て、ヤバイ物と判断し少しだけ飲んでみようかという選択肢を瞬時に外した。 店の奥から裏口に出たプロシュートだが出た瞬間、顔から嫌な汗を思いっきり流し咳き込んでいる。 「ガッ…!ガハッ…!ゴバッ!!…ハァー…ハァー…こんなキツイのは…リゾットが…作った飯を…食った時…以来だな……」 肩で息しながら回想に入るが、あの時もこんな状態になった。 リゾットの料理の腕や味覚が壊滅的に悪いというわけではない。むしろ巧い方だったのだが… 無意識的にメタリカが働いたらしくアルミホイルや金属を奥歯で噛んだような感触や味がしてえらい目にあった。 「オカマに迫られるわ…妙なモン飲まされるわ…厄日か?クソ…ッ」 「ふふ…大丈夫ですか?水お持ちしました」 笑いながらシエスタが水を持ってきてそれを飲み干す 「そんなに酷い味だったんですか?」 「ありゃ毒の領域だな…拷問用具として売り出せれば一財産稼げる」 「…よく吐き出しませんでしたね」 「…まだここで働いてるからな」 従業員が店で吐けば確実に今後の売り上げとかが落ちる。表の仕事と暗殺稼業で鍛えたプロ根性で耐えたが限界ギリギリだった。 「……大分マシになった。助かったぜ」 「水をお持ちしただけですので…そういえば、ずいぶんと手馴れた感じの様子だったみたいですけど、ここに来る前は何をしてらしたんですか?」 さすがに、この悪意の無いストレートな問いには戸惑った。 「…まぁ上の連中の後始末をな」 「…すいません」 若干言いにくそうに言うので何か聞いてはいけない事を聞いてしまったのかと思ったのか頭を下げる。 「オメーは、一々人に頭下げすぎなんだよ」 「す、すいません…!」 ペッシでもここまでやらねーと思うと、何か新しい生物を発見した気分になる。今の今までこんなのにはお目にかかったことが無いのだ。 「ったく……そこまで頭下げられると説教する気にもなれねぇ」 「すいまひゃあ!」 三回目の前にバスっと後頭部を一発叩かれる。 「…痛いですよぉ」 「一回言うごとに強くなるからな」 「さて…いい加減あいつら帰さねーとな…明日もあんだろうからあいつらと一緒に先に戻って構わねーぞ」 「明日…ですか…」 はふぅ…と溜息つき、語気が弱くなる。 「なんかあんのか?」 「いえ…」 何も無いならと扉に手を掛けるが後ろから声がかかった。 「その…プロシュートさんさえよければ…最後に頂きたいものが…ある…んですが」 「まぁ世話になったからな…くれてやれる範囲のものでなら構わねーが」 「首から下げられている…それを頂けると…」 イニシャルでもあるPの形を模した勾玉にも見えるものを指差す。 半分奇跡的な状態で糸が繋がっていて今にも取れそうなものだ。 「まぁ…こんなもんでいいなら構わねーが」 プチッっと糸を千切りそれを手渡す。 「あ、ありがとうございます!これがあれば…明日から頑張っていけそうな気がするんです」 「他になんもないんなら行くぞ」 扉の向こうにプロシュートが消え扉が閉まると笑顔から一点、目を伏せ小さく呟いた 「これが…あれば…あそこでも…頑張れますから…」 そして、席に戻ると三人がすっかり出来上がっていた。 「遅いわよぉ~~~なにやってたのぉ~~~」 「………(ガオン!)」 「ふぉら!こっひきらはいよぉ」 「マジで帰れ」 閉店時間になりハンカチを噛んで泣きながら見送る『ミ・マドモアゼル』を後にプロシュート以外の四人がシルフィードに乗り込む。 「ほりみちひはいれはえっへふんのよぉ~(寄り道しないで帰ってくんのよぉ~)」 「もう一軒行くわよぉ~~」 「学院…ケプ……zz…ケプ…zzz」 「………酔っ払いが二人と食い倒れが一人か…悪いがこいつら頼む」 「分かりました…気をつけてくださいね…」 「まぁ基礎トレーニングと思えば…な」 往復計6時間の乗馬はかなりキツイ。だが基礎体力の向上は望める。 偏在のようにグレイトフル・デッドの能力が通じない敵が存在する以上、本体のパワーアップは少しでもしておいた方が良い。 シルフィードが飛び立つ事を確認すると馬を進めるが上空が水滴が2~3滴落ちてくる。 「……ヤバイな…雨か?」 上を見上げるが有るのは二つの月と雲ひとつ無い星空とシルフィードだけだった。 「…妙だな」 まさかとは思うがシルフィードがやったのか…?と当人(当竜)にとってはかなり失礼な思考をする。 明け方帰ってきて久しぶりにルイズの部屋に入る事を「許可するッ!」をされていたのだが酔っ払っていて鍵が開かなかったので例によって使用人部屋で寝る事にした。 「帰ってきてねぇはずはないが…」 とっくにルイズは帰ってきているというのにシエスタが居ないはずはないと思ったがぶっちゃけ疲れていたため、まぁ気にはなったが寝る事にした。 「…デルフ馬に付けたままだったが…起きてからで…問題…ねぇな…」 ~翌日~ 「…ッかぁ~」 珍しく欠伸しつつ首を鳴らしながらルイズを叩き起こし、食堂へ向かう。 「…ねぇ昨日途中から記憶が無いんだけど何で?」 「あんだけ飲みゃあな…つーか記憶無くす程飲んでなんでオメーは二日酔いの片鱗すらねーんだ」 食堂でルイズと別れコーヒーでも貰うかと厨房に向かうが、妙に雰囲気が重かった。 「わりーが目が覚める何かくれ…」 「おう…ちょっと待ってくれ…」 「…らしくねーな、なんかあったのか?」 マルトーですら沈んでいる。さすがにあの親父がこうも沈んでいる事に気付く。 沈黙が数秒を続いた後、マルトーが頭下げてきた。 「すまねぇ……!シエスタはおまえさんが心配するから言わないで欲しいって言われてたんだが… 三日前にモット伯って貴族が来てシエスタを気に入ったらしく…今朝の明け方連れていっちまったんだ…!」 「…そのモット伯ってのはどういうヤツなんだ?」 「なんでも平民の女を集め手篭めにしてるってぇ話だ…」 「…チッ!」 思わず舌打ちが出る。 三日前なら少し様子が妙だと思い始っていたのだが特に気にしてはいなかった。この時ばかりはリゾットのあの洞察力の高さを羨んだ。 (あれに気付けねぇたぁ…少しここの空気に慣れすぎたな…!) 無言で立ち上がるがマルトーが口を開いた。 「あいつは…おまえさんが知れば、モット伯の所に行くと思ってるから黙っててくれって言ったんだ…」 「オレが居たとこではな、あんな目をしたヤツなんてのは居ねーんだ…殆どのヤツが最初から目が濁ってやがる…! それでも、少しは居た…!だが、同じようにして連れていかれ結局濁った目になんだよ…!分かるか…?オレの言ってる事…」 自分が捨てたはずの過去を思い出す。 親が酒代やヤクの金を得るためだけに何も知らない娘を売り飛ばした連中を何人も見てきた。 プロシュートもどっちかというと貧民層の出だったので幼馴染の娘がそういう風に連れて行かれ、1年ぐらいしてその娘と再会した事がある。 精神的にかなりヤバかったので何とかして病院に入れたのだが、昔見たような目はもうしていなかった。 それでも、何とか話せる範囲まで回復させたのだが、それからしばらくして病院に行くと手首を斬って自殺していた・・・ その時から、このクソみたいな場所を捨て『栄光』を求めるため『パッショーネ』に入団した。 「…どうやって連れて行ったんだ?無理矢理引きずっていったわけでもねぇだろ」 「どうするかは本人が決めていいと言ってたが…選択肢なんてありゃあしねぇようなもんだった! 『断れば家族がどうなるか』とか抜かしやがって…!そんな事言われりゃあシエスタが断れるはずねぇよ!」 (組織と同じじゃねぇか…ッ!気に入らねぇ…) 二年前を思い出す。『従わざるものには死を』。それに反発し反逆したプロシュートが気に入らないのも当然だ。 「シエスタには世話になったし恩もある…そのモット伯ってヤツも気に入らねぇ…オレが動く理由はそれだけで十分だ」 それだけ言うと厨房を後にし、外の椅子に座り机に脚を乗せどうやるかと思考を張り巡らす。 1.シエスタを引っ張ってでも連れ戻す。 「ダメだな…『断れば家族がどうなるか』と言われている以上、あいつの性格じゃ付いてこねぇな」 2.モット伯を殺す 「…こいつも…無理がある。老化を使えばいけるだろうが…結構知ってるヤツが居るみたいだから調べられればバレる… デルフ使えば魔法は吸い込めるから老化無しでやってもいいが…屋敷に乗り込んで刃物で斬り付けて証拠が残らない方が無いな」 3.脅迫 「…ダメか。ネタがありゃあいけるが…手ぇ付けるとしたら今夜ってところだろうから捜す時間がねぇ 老化させて死ぬ寸前まで追い込んでもいいが…姑息な手ぇ使うヤツが後から何もしねぇって事はないだろうしな…」 シエスタが連れて行かれる前だけなら、打つ手はいくらでもあっただろうが、人質に取られたような今となっては上に挙げた案は全て使い物にならない。 「殲滅には向くがこういうのにはトコトン向かねぇ能力だな…」 「あいつらならどうする…?」 (纏めてブチ割りゃあいいだろうがよォォォォオオ) 「死ね」 (しょお~~~がねぇ~~~なァ~~~。リトル・フィートで小さくさせ飛び降り自殺にでも見せかけりゃあ済むだろうがよぉ~) 「…オレの能力じゃ自殺に見せかけんのは無理だな」 (兄貴ィ…その…兄貴が殺らなくてもいいんじゃあないですかい?) 「この腑抜け野朗がッ!」 (行方不明にでもさせればいい。マン・イン・ザ・ミラーなら楽なもんだ) 「老化が使えねぇ…そうなると埋めるかどうにかして処理しなくちゃあならないが…足が付く可能性があんな」 (ディ・モールト!ディ・モールト良いぞッ!メイドなんてアキハバラでしか見れないじゃあないかッ!) 「ちったぁ自重しやがれ」 (そうだな…殺ったという証拠さえ残さなければいい…) 「証拠を残さず殺るか…問題は殺っただけじゃあダメだって事だな…モット伯とその周辺関係をブチ壊すような殺り方でないとな…」 2~3使い物にならなかったが、他のヤツならどうするかと脳内で考え出た答えに一々突っ込む。 「つまり、シエスタとその家族にも影響が無く、モット伯とその周辺も巻き込んだハデな殺り方で証拠も残さないようにしろ…って事か…」 (『任務は遂行する』『部下も守る』『両方』やらなくちゃあならないのが『幹部』の辛いところだな) 「ブチャラティのヤツ…えらく簡単に言ってくれたじゃあねぇかよ」 「机に脚乗せてなにブツブツ言ってるのよ」 「…オメー、モット伯ってヤツの事なんか知らねーか」 「モット伯…?会った事は無いけど…いい話は聞かないわ。平民の少女を集めて その連れて行かれた娘たちは誰も戻らないって聞いた事がある。宮廷とも繋がってるから野放しになってるらしいんだけど」 (戻ってこないだと…?ってこたぁ飽きられたか用済みになったヤツは始末されてる可能性があるな…) 「それで、モット伯がどうしたのよ」 「気にすんな」 (なまじ貴族で顔が知られてるだけに連れて行くと証拠が残る…単独で殺るのが確実か) 決めるや否やその行動は速い。机から脚を降ろし立ち上がる。 「…あいつの気にすんなは絶対なんかあんのよね」 厨房に戻り、必要な物を手配してくれるように頼む。 すぐ揃えられるものばかりなのでそう時間は掛からないが、暗くなる前に少しは偵察ぐらいしておかねばならない。 「暗くなる前に偵察を済まし…暗くなれば即突入か…強行軍だな」 馬を走らせ街道を進んでいくとデルフリンガーが口を開いてきた。 「兄貴、勝算はあるのか?」 「殺るだけならまぁ九割九部だが…そこに『証拠を残さず』かつ『ハデに殺す』だと…4割ってとこか」 「低いな…大丈夫なのか?」 「やらなけりゃあ『ゼロ』だからな」 「嬢ちゃんが聞いたら怒るぜ兄貴」 軽口をたたきながら森の入り口に馬を隠すようにして繋ぎ、木に登り邸内の様子を探る。 「門前に一組、犬持ちが3…ツーペアが2組か…巡回は庭がのみに限られてるみてーだが…どうやって館の中に入るかだな」 「老化させちまえばいいんじゃね?」 「そいつは無理だ。皆殺しにでもしねー限り、解除すれば老化したっつー事が知れる。オレだけならまぁ、それでもいいが…ルイズまで巻き込むと厄介だ」 そう言った後、思わず自嘲的な笑みが浮かぶ (ハハ…列車で乗客ごと巻き込んだオレが言えた台詞じゃあねーな) 「?どうした兄貴」 「なんでもねぇ…連中、モット伯に忠誠とか誓ってると思うか?」 「王室とかの直属部隊ならそうだろうけど、貴族の私兵とかは大体、金繋がりじゃね?」 「…ならやれなくもないな」 日が落ち辺りが闇に包まれる。 もっとも日が落ちようが巡回の数は変わらず門には依然として衛兵が二人立っているのだが。 「突っ立ってるってだけってのも暇でしょうがねぇな…」 「ああ…それなのにあの親父は今日新しく入ってきた女とお楽しみってわけだ…どっかに儲け話でも落ちてねーか」 「金がありゃあ俺達だってなぁ…だが、飽きたらあの部屋に放り込むのはな…悲鳴が聞こえる度に吐き気がすんぜ…」 「言うな…悲しくなる。まぁ立ってるだけで金が貰えるんだからよしとしようや……む…!おい!誰か来るぞ!!」 「一人か…?そこのやつ!止まれ!!」 全身を黒いローブで包んだ人影がゆっくりと近付いてくる。ローブで顔を覆っているため、その顔が見えないためそれが余計衛兵の不安を煽った。 「と、止まれ!!」 だが近付いてくるにつれ、それが妙な事に気付く。 左腕から多量の血を流し右手で左肩を押さえよろめくように近付いている。 「た…助けてェェ~~~~目もかすんでよ…よく見えない~~~ッ」 もちろん、その程度で武器を降ろすほどマヌケな衛兵ではない。 「その顔のローブを外して顔を見せろ!!」 「街道を歩いてたら襲われちまってよォォ~~~~~匿って欲しいんだよォォォ~~~」 そう言いながら顔のローブを外すが、それを見た衛兵達が警戒レベルを落とした。 「な、なんでぇ…ジジイじゃあねぇか」 「ここはモット伯の館だ!貴様のような老いぼれが近付いていい場所ではない!」 もう、くたばり損ないのジジイと判断して武器を降ろし追い払おうとするが、次の男の言葉に前言撤回する事になる。 「助けて欲しいんだよおオオ…礼はいくら…でもするからよォオオ~~~」 血を流す腕からこの男が差し出してきたのは、金貨が詰まった袋だ。 「うおぉぉ!エニュー金貨じゃねーか!」 「マジでか!?」 さっきまで儲け話はないものかと話し込んでいた衛兵達にとってはまさに天佑ともいえ、目が金貨に釘付けになる。 「まだ…金貨は別の場所にあるんだぁぁぁあああ助けてくれたらよぉぉ~~……全部やるからよぉぉぉぉ」 「おい…どうする?」 「この量の金貨だぜ?助けたってバチはあたんねーだろーが。まだ持ってるみてーだしな… それにくたばり損ないのジジイだぜ?万が一何か狙ってきたとしても何ができるってんだ」 「モット伯はどうするんだ?」 「放っときゃあいいだろーがよ!あのドケチなエロ親父が払う給金と、この袋に詰まった金貨どっち取るよお前」 「そう…だな!やっぱそうだよなぁぁぁぁアアア!どーせそろそろよろしくやってんだし知らせるこたぁねぇよなぁーーーーッ!」 (兄貴も結構演技派だよなぁ…) 半分引きずられるようにして、自分自身を老化させたプロシュートが館の中に運ばれていく。 途中それを見た他の衛兵が見咎めるが、金貨を見せられると同じようにそれを黙認する。 「薬持って来る前に、袋を渡してもらおうか…?」 「あ…?あぁ~~~いくらでもくれてやるからァァァアア…早く助けてくれよォォォオオオ」 「この色、この音!やっぱたまんねぇよなぁぁぁ~~~」 「お、おい!俺にも見せろ!」 部屋の中に通され衛兵の一人に金貨の詰まった袋を渡すと、片方の衛兵が薬を取りにいく。 そこに、金貨の数を数え気を取られている衛兵の延髄に強烈な一発が入った 「ギャパ……!」 「…たく…ジジイのフリすんのも楽じゃねーんだぞ」 「こいつどうする?」 「始末してもいいが…血痕が残ると逆に厄介だな。縛ってしばらく寝てもらうしかねーな」 縛りながら衛兵の鎧を脱がしそれを着込みその上から全身を隠すようにローブを着る。もちろん行動に支障が出ない程度に老化はしているが。 部屋の外に出て誰も居ない事を確認すると 「さて…ハデにおっぱじめんぜ…!」 そう言いながらローブの内側に括り付けられたビンを数本取り出しビンの口に入れられた油紙に館に備え付けられたランプの火を灯し ドシュゥゥゥウウ! というような勢いで廊下の向こう側に思いっきり投げつけた。 早い話。火炎瓶である。だが、油と水が7 3で混じっており水が燃えた油を弾き炎が広がっていく。良い子は真似しないように。 そうこうしていると、外の衛兵が中に駆け込んでくる。 「て、敵襲!敵襲だ!!」 ローブをすっぽりと被った男が杖を構え廊下の曲がり角を曲がる。それを衛兵達が追うが廊下の先からも火の手が上がった。 「メ…メイジか!?」 実際はただの木の枝なのだが、メイジ 平民である以上心理的恐怖を煽るには十分だ。 「我々では相手ができん…!モット伯と護衛のメイジを呼べ!!」 時間を数刻程バイツァダスト 「伯爵が寝室でお待ちです…お急ぎを」 「は…はい…」 重い足取りで湯から上がり用意された服に着替える。 最後にあのP首飾りを付ける。これさえあれば頑張れると言ったもののやはり、恐かった。 「大丈夫…大丈夫だか…ら…」 再びキング・クリムゾン 「地下か…?まぁ火と馬鹿は高いところに行きたがるもんだから、地下にはいないとは思うが」 一応調べるべく階段を降り扉を開きしばらく歩くが、その先にある物を見て一瞬言葉を失う 「……おいおいおいおいおい!兄貴こいつぁ随分とヤベー趣味してんな」 「……こいつは…おったまげたな…全部拷問器具かよ」 その中の一つ、体の内側に張りを無数に生やした人形―アイアンメイデンを開くと、血臭が流れる。 針先を触るが完全に乾いているので、使われたのは大分前だという事が判る。 「急いだ方がいいぜ兄貴」 「……みてーだな」 (ソルベとジェラードもこんなゲロ以下の臭いがする部屋で殺されたってのか…!?クソッ!!) 「は…入ります…」 「随分と遅かったじゃないか」 モット伯が本を本棚に戻すと、シエスタの後ろに回り肩に手を当てる 「私はお前をただの雑用として雇ったわけではない…分かっているんだろうなぁ?」 「は…はい……」 「ふふ…そう緊張しなくともいい…別に痛い事をするわけではないのだから……今はな」 『今は』という言葉に、いずれされるという事に思わず泣きそうになるが必死になってこらえる。 「…くッ!…ン!」 「服の上では分からなかったが…いいものを持っているではないかね」 必死に耐えていたが、他人に触られた事のない場所を触られて遂に涙が零れた。 (父様…母様…マルトーさん…ヴァリエール様…ツェルプストー様…タバサ様…オスマン院長…!プロシュートさん…!ごめんなさい…) 父と母そして、今まで学院で会った人の顔が走馬灯のように頭に浮かんだ。 そこにドアを激しく叩く音が聞こえ、扉の向こうから叫ぶような声が聞こえてきた。 「申し訳ありませんモット伯!て、敵襲です!」 シエスタの胸から手を離しイラついたようかのように叫ぶ。 「えぇい…何のために貴様達に金を払っていると思っておるのだ!」 「で、ですが、敵は…メイジ…!恐らく火のメイジかと…!」 「役立たずが…ッ!!ヤツにも働いてもらわねばならん…メイジにはメイジで対応させろ!私は忙しいのだ!捕縛する必要は無い!殺せ!!」 「りょ、了解いたしました!」 「まったく…平民というものは無粋なものだ…さぁ続きをしようか」 泣いている姿を見て、嗜虐心をそそられたのかさっきよりもアレな笑みでゆっくりと近付く。 だが、またしても部屋のドアが叩かれた。 「敵メイジの攻撃で延焼が広がっております…!このままで屋敷が…!」 さっきとは別の年季の入ったような声が聞こえてくる 「何だと…ッ!?忌々しいヤツめ…!」 このまま火が屋敷全体に廻っては元も子もない。そう判断し杖を手に取り扉を開ける。 「火はどこだ!?」 「こちらです」 場所に案内するために衛兵がモット伯の手を取り部屋の外に出る。 「えぇい…!平民風情が私に触れずともよい!」 振りほどこうとするが、その手はガッシリと掴んだまま離そうとしない。 「…雇った部下の顔ぐらい把握しとけ…『幹部失格』だな」 「な…なにをおおおおおおおおおおおおお…きぃぃぃさまぁぁぁぁ…」 モット伯の悲鳴が聞こえ、代わりに衛兵の姿の歳を取った男が入ってくるが、体格、髪型などはシエスタに見覚えがあるものだった。 「遅くなったな」 「…プロシュートさん…ですか?」 「おう、正真正銘の兄貴だぜ、これで」 デルフリンガーの声を聞いて一瞬安堵したかのようだが、すぐに顔を青くして叫ぶ 「に、逃げてください!…このままじゃプロシュートさんやミス・ヴァリエールにも…!」 「いや…何の問題も無い。オレの仲間の言葉を借りるなら…『こいつはもう、出来上がっている』からな」 「こっちだ…!ローブを被ったヤツが居たぞ!!」 ローブを被った男が必死になって逃げるが足取りが弱弱しい。 (な、なんでこんな事に…!) その男の前にメイジが現れ杖を構えている。 「貴様…盗賊か何か知らぬがモット伯の館に侵入し火を付けて命あって帰れると思うなよ」 「きさ…まら!な…にを…言って…いる!わた…しが…モット伯…だッ!!」 「お前がモット伯だと?呆けた事を…!」 「わ…たしの…顔を…見て…も…まだ分からんの…か…!」 ローブの男が頭からそれを外しモット伯だという事を証明しようとしている。 だが、帰ってきた返事は希望の一片も残されていなかった。 「ハッ!貴様みたいな年寄りがモット伯なわけがあるまい!…命令だ、捕縛する必要は無い『殺せ』というな…」 「なん…だと…?」 壁に掛かった鏡を見るが、そこに写っているのは若さを失っている己の姿。 それを視界に納めた瞬間、胸に熱いものを感じそこに目をやると、氷の棘が突き刺さっていた。 「賊は始末した。モット伯に報告し…私も…クク…余り物の相手をせねばな…」 邪悪な笑みを浮かべ死体から目を離すが、後から追いかけてきた衛兵が驚くべき事を叫ぶ。 「モ、モット伯が…!…モット伯が殺された!!」 その声と共に衛兵が逃げ出す。それに反応して死体に目を向けるが…己の主が自分が放った氷に胸を貫かれ息絶えていた。 「…なッ!い、いったい…どういう…事…だ…?」 そのメイジは茫然自失で杖を落とし、その場に座り込み衝撃で意識を失った。 「命令に忠実すぎる部下ってのも…中々に大変なもんだな」 「兄貴、何やったんだ?」 「完全に死ぬ前に老化を解除しだだけだ。これでオレが止めを刺した事にはならず、かつ老化した事も残らねぇ。後は逃げるだけだ」 「結構えげつない手使うな兄貴も」 「こいつも、色々やってたみたいだからな…因果応報ってやつだろ…ま、人の事言えたもんじゃねぇがな」 「あの、娘っ子はどうすんだ?連れていかねーのか?」 「置いていく。今、連れ帰ったらバレんだろーが…! 自分が雇ったメイジに殺されたんだからな。ま、これで捜査が入って地下のあのクソみてーな部屋も見付かんだろうよ」 その言葉と共に歩き出し、館を出る。衛兵達は全員逃げ出していたので隠れて移動する必要は無かった。 翌日昼頃 「…ねぇ昨日モット伯が護衛のメイジに殺されたらしいんだけど…あんた何かやったんじゃないでしょうね」 「殺ったのは護衛のメイジなんだろ?オレの知ったこっちゃあねーよ。ほれ…オメーが持ってろ」 「…なにこれ?」 投げ渡された袋を開けるとそこには『クックベリーパイ』が入っていた 「……毒?」 「いらねーなら返せ」 「いや…急にこんなもの渡されるから…」 「オレに隠してスーツの立替しようなんざ10年早えーよ。テメーのケツぐらい自分で吹く」 「な、なによ!ご主人様が使い魔の事を思ってやってあげたんじゃない!」 「ハ…!まだまだマンモーニのくせしてよ…まぁそいつは秘薬ってヤツの代わりにはならねーだろうが…礼は言っておく」 「わ、分かればいいのよ!分かれば!」 「ところで、前のヤツにウェールズから預かった風のルビーを入れてたはずだが…あるんだろうな?」 「………そういう事はもっと早くいいなさいよこの馬鹿ハムーーーーーーーーー!!」 スデにゴミと一緒に集められ焼却処分寸前になるところに 焦りに焦ったルイズとどうでもいいようなプロシュートがそれを回収していたのを微笑ましい目で出番の全く無いフレイムがそれを見ていた。 モット伯 ― 護衛のメイジに胸を貫かれ死亡。捜査の段階で地下の拷問部屋も発見され身分剥奪。 護衛のメイジ ― モット伯殺害犯として連行され取調べの後、処刑。ひたすら自分はやっていないと言い張っていた。 シエスタ ― 数日取調べを受けるが、部屋に篭り何も見ていないと言い釈放。学院に戻ってくる事になる。 ゼロのルイズ ― 好物を貰い、少しだけデレに傾きかけるが風のルビーの事を知らされていなかったため戻る。 戻る< 目次 続く
https://w.atwiki.jp/familiar_spirit/pages/806.html
「…で、君達はなぜあのような時間に出歩いていたのだね?」 コルベールの質問にルイズは床を見つめ、キュルケは天井を仰ぎ見る。 事の始まりはジョナサンに武器を持たせようというルイズの思い付きにあった。 「武器も持ってない衛士を連れて歩くなんて貴族の恥よ!」 という理由で虚無の曜日に武器屋に行ってみたものの、足元を見た店主と軽い財布という 二つの難題をどうにもできずに、結局デルフリンガーとか名乗るボロ剣を厄介払いの形で 押し付けられた。 店主曰く 「そもインテリジェンス・ソードと言えば古くは名高き『嵐の運び手』に始まり 『エクスカリバーの子』や『魂の秤手』、近くは『陽光』『混沌』の対に至るまで すべからくその知性と魔力でよく魔を払い勇者を導き世界に光をもたらしたもので、 滅多にお目に掛かれない珍品中の珍品」 らしいが、鞘から抜けば刃先どころか刃身まで赤錆だらけ、しかも益体も無い事を ああだこうだと喋り散らす剣が何の役に立つとも思えなかった。 事をややこしくしたのはルイズにちょっかいを出そうというキュルケの思い付きにあった。 ルイズとジョナサンが武器を買いに出たと知るやタバサに頼み倒して使い魔の風竜・ シルフィードを出して貰い、馬で先行していたルイズ達が渋々ながら買い物を済ませた そのタイミングで武器屋に入り、店主にちょっと涼しげな格好をしてみせて、 店一番の業物と店主が豪語する長剣を二束三文で買い叩き、またも先回りして学園に戻った上で 帰ってきたジョナサンに手渡した。 店主曰く 「そもメイジが鍛えた剣とは即ち今日只今のように魔法万能の時代の遥か昔 始祖ブリミルがおわした神代の息吹を今に伝える伝統と歴史の品、またこれを鍛えし シュペー卿はかの伝説のダマスカス卿やクルップ卿と名を並べる練金の名手」 らしいが、単に光り物沢山の拵えがキュルケの好みに合っただけで他はどうでも良かった。 キュルケにとってジョナサンはルイズの使い魔であり、それを誘惑して奪う事には ルイズをからかって遊ぶ以上の意味は無かった。 ところがジョナサンは今まで「遊んで」きた貴族のボンボンどもとは異なり、誘いに乗るどころか 「既婚者である僕の前で淫らがましい真似をするのならば、それは僕に対する侮辱と見なす」 とまるで鼻に掛ける素振りも見せない。 障害があるほどに恋は燃え上がる。例えそれが遊びに過ぎないとしても。 他に理由があるとすれば (既婚ッ!官能的な不倫劇!これを攻めずして何とするッ!) という登山家にも似た情熱もあるだろうが。 理由はどうあれ自分の使い魔にちょっかいを出すキュルケをルイズが許すはずも無く、 「あんたは主人のあたしが渡した剣を使いなさい!あたしの使い魔なんだから当然よね?」 「あぁら、自分が使う剣なんですもの、自分で選ぶわよねぇジョジョ?」 「なにがジョジョよ馴れ馴れしい、貴族に飽き足らず平民にまで手を出すのかしら? さすがに腰軽で名を馳せるツェルプストーだけはあるわね」 「あらまあ、自分の従者に満足な武器を整えてやれない貴族に言われたくないわねぇ。 ま、そんな貧乏ったらしさがヴァリエールらしいちゃあヴァリエールらしいんだけど」 と当のジョナサン(と巻き込まれたタバサ)を置いたまま毎度のようにいがみ合い、 だったら魔法で勝負よ、とばかりに裏庭に出たところで宝物庫襲撃の現場に出くわしたのだった。 (さすがにそのまんま答えるってのはナシよねぇ…馬鹿馬鹿しいし) (魔法の練習とでも言っとくか…でも言えばキュルケに何言われるか…) キュルケとルイズは同時にタバサに目を向けるがいつもの無表情で取り付く島も無い。 「まあこの際それは不問としようじゃないか」 オールド・オスマンが助け舟を出す。 「それよりも状況を報告してくれたまえ、ミスタ…あー…」 「コルベールです。 破壊された壁面は『土』系統の教師を中心として現在修復中、但しまだ崩された外壁を元に戻した程度です。 盗難された品は『破壊の杖』、これは宝物庫の壁に残っていた書付の通りでした。 あと昨夜の当直だったミス・ロングビルはまだ発見されておりませんが、瓦礫を撤去しても死傷者は 発見されなかったため、フーケに誘拐された可能性があります」 「ご苦労。引き続き修復と捜索を続けてくれ」 「はい」 一礼してコルベールは学長室から退出するが、すぐさま 「オールド・オスマン!ミス・ロングビルが戻ってきました!自力でッ!」 消耗した様子のミス・ロングビルに肩を貸しつつ戻ってくる。 ミス・ロングビルの報告は次の通りだった。 ・夜間巡回中に突然中央塔の外壁が破壊され、そのショックで気絶した。 ・気付いた時に巨大な土ゴーレムが中央塔から去る光景を目撃し、 更に宝物庫の壁に穴が開いており、書付を読んで何が起きたのかを察し、 犯人を見失う前に追跡を開始した。 ・犯人とおぼしき黒ずくめのローブ姿の男は学園から離れた森の中にある廃屋に 身を潜め、朝になるまで出てこなかった。 「…恐らく昼のうちはその場に潜んで追っ手を撒き、その後夜に乗じて逃亡するつもりでしょう。 私は夜明けになるのを待ってすぐに戻りましたが、追跡中に感じた以上に距離があり、 魔力の消耗も激しく途中から徒歩で戻ったため…遅くなってしまいました」 ソファに横になったまま報告を進めるミス・ロングビル。 「その廃屋の場所は?」 「学園から徒歩で半日、馬なら四時間程の場所です。もし馬をご用意いただければご案内します」 「それなんじゃがな…」 溜息をつくオスマン。 「現在教師の大半が中央塔と宝物庫の修復に当たっていますが、今日一杯は作業が続くという報告がありました。 また生徒に動揺が広がるのを懸念して学内外への緘口令をしいていますので、王室衛士隊へ連絡した上で 討伐隊を派遣してもらう訳にも行きません」 コルベールの表情も硬い。 「昼のうちに捕らえんと逃げられそうだが…さて誰が行くか…」 学長室内が重い沈黙に包まれる中、 「私が参ります」 杖を掲げてルイズが名乗りを上げる。 「…私も参りますわ」 次いで杖を掲げるキュルケ。 「ミス・ヴァリエール!ミス・ツェルプストー!君達は生徒だ!危険な目にあわせる訳には…」 仰天して声を荒げるコルベールを制し、 「なるほど、諸君らは事件の目撃者ゆえに緘口令からは外れると、こう言いたいのかね?」 オスマンが問いかけると、 「いいえ、このような盗賊をのさらばせてはおけません!このまま『土くれのフーケ』を放っておくのは トリステイン魔法学園の名誉を傷つけるのみならずメイジの名折れです!」 舌足らずな、しかし凛とした声でルイズは答を返す。 「私は…えー…その、ミス・ヴァリエールと同意見ですわ」 気圧されたキュルケの回答に、傍らのタバサも 「心配」 とだけ答えて同じく杖を掲げる。 「よろしい!諸君らに『土くれのフーケ』捕縛の任を命じる!貴族の義務を果たすように!」 「杖にかけて!」 オスマンの号令に一礼する三人を見て、自分の予想通りに事が運んだ、とミス・ロングビルは内心ほくそ笑む。 だがこの時、オスマンとコルベールも同様の笑みを浮かべていたことを、彼女は知る由も無かった。
https://w.atwiki.jp/familiar_spirit/pages/899.html
「それでノコノコ戻ってきたの?」 「僕たちが囮になったのは意味が無かったって事?」 「…マヌケ」 宿に戻って事情を説明して、そして返ってきた反応がこれだ。 確かに囮にまでなってもらったけど失敗しました~なんて言われたら怒るのは当たり前だ。 だがな、あのままロリコンを連れて行ったらどうなるのかも考えてみろ。 きっとうまい事言ってルイズと結婚して、ウェールズとか言う皇太子が殺されて、目的の手紙も奪われるかもしれないんだぞ。 そんな事態を回避しただけでも褒めてもらいたいね。大体お前らの中にあのロリコンを怪しいと思ったヤツがいたか? 「そりゃあ疑ってたわよ」 「普通は犬に手合わせなんか申し込まないよ」 「でも敵の実力を計るのなら話は別」 あれ?全員疑ってたのか?というかギーシュ、お前が言うな。 気づいてなかったのはおれとルイズ、でもおれはちゃんと見破ったから問題なし。 「つまり気づかなかったのはルイズだけか」 「そうなるわね」 「そうだね」 「…役立たず」 「きゅるきゅる(コイツはダメだな)」 「きゅいきゅい(使えないのね)」 「モグモグ(これだからルイズは…)」 「とにかく!今は船が出る時間まで体を休めましょう!」 あ、話題変えやがった。でもそうだな、今は休むのがいいかもしれないな。 「おい犬、後で部屋に来い。さっき途中で逃げたよな?」 勘弁してくださいよタバサさん。 新しい朝が来た。希望の朝だ。 おれは生まれ変わったような気分でいた。 やはり貧乳は素晴らしい。 機動性や年を取っても垂れない等、巨乳の弱点がほとんど無い! それはそうと最近ロリコンやら貧乳やらそっち方面の話題が多いな、自粛しよう。 そろそろ出発の時間なので港へ行く。 「そろそろ出発の時間です」 おれ達が乗り込んだ瞬間に船がでる。まるでRPGみたいなタイミングだ。 そしてしばらく船に乗っていると 「空賊だー!」 笑っちゃうくらいRPG的なイベントが起こった。 「この船は我々が乗っ取った!逆らわなければ命までは奪わない!」 これまたRPGで出てきそうな台詞。 何もせずつかまる船員たち。 そしてその直後におれの目の前が真っ暗になった。 目が見えるようになったら知らない部屋の中にいた。 とりあえず周りを見回してみるとどこかの部屋に閉じ込められた事が分かった。 RPGの場面切り替えか…おれの頭も変な影響を受けているらしい。 だがこれがRPGなら話は早い。この状況でイベントを起こすためにできる事は一つだ、それをすれば良い。 「良い男がいないと退屈ねぇ」 「ああ、モンモランシーは心配してないだろうか、何も言って来なかったから心配していないだろうか」 「…(本を読んでいる)」 「なー相棒、構ってくれよー」 「こんな事で任務を失敗させる訳にはいかないわ…」 全員に話しかける事(使い魔達は置いてきたから除外)、これがイベントを起こす一般的な方法だ。 ドアが開き空賊が入ってくる。 「お前らはアルビオンの貴族派か?」 イベント発生。この質問の答えによって今後の展開が変わるかもしれないので慎重に考える。 「薄汚い貴族派なんかと間違えないで。私は王党派への使いよ!」 おお、怯むことなく答えた。 でもおかしいだろ!イベントを起こしたのはおれだぞ!何で『はい・いいえ』の選択権がルイズにあるんだ! 「バカかおまえは!せっかくおれがイベントを起こしたのに!」 「バカ正直に答える必要はなかったんじゃない?」 「答える前にもう少し彼らの情報を引き出してからでも良かったじゃないか」 「…ノータリン」 「娘っ子は胸だけでなく頭まで足りねーんだな」 おれ達の一斉抗議を受けながらも薄い胸を張り、ルイズは続けた。 「大使としての扱いを要求するわ」 無理だろ。 空賊は頭に報告してくると言い、笑いながら去っていった。 しばらくしてさっきの空賊が戻ってきた。 「来い。頭がお呼びだ」 付いて行く。そして連れて行かれた場所は船長室だった。 「おい、お前たち、頭の前だ。挨拶しろ」 「いいえ」 「大使としての扱いを要求するってか?」 「はい」 「王党派と言ったな?貴族派につく気はないか?」 「いいえ」 だから何でルイズに『はい・いいえ』の選択権があるんだよ! もうしゃべる事すらまともにできてねーじゃん! 終わったこれでGAMEOVERだ。最後にセーブしたのどこだっけ? おれが最後のセーブポイントを、そもそもそんなものがあったかを思い出していると いきなり頭がその場で回転しはじめた。『あたま』じゃなくて『かしら』だぞ?間違えるなよ? そしてその回転が止まった時には金髪の凛々しい青年がいた。その青年が口を開く。 「アルビオンへようこそ。僕が皇太子のウェールズだ」 To Be Continued… セーブしますか? あ、セーブポイントあった。『はい』……ってメモリーカードがありません!? 何でSFCレベルの演出でPS以降のセーブ方式なんだよ! リメイク版か!?だとすると何がリメイクされてるんだ!?
https://w.atwiki.jp/familiar_spirit/pages/2262.html
2話 「……ナルホド。ツマリ私ハモウオ前ノ使イ魔ニナッテシマッタノカ」 「そうよ」 「……ソシテコノ左手ノ甲ノ文字ハソノ印カ」 「そうよ」 「仮ニ私ガコノ左手首ヲ切リ落トシタナラ、ドウナル?」 「どうもならないわよ。あんたが痛いだけ」 「デハ、私ガオ前ノ使イ魔ヲ辞メル方法ハ無イノカ?」 「無いわ。主人と使い魔との契約は使い魔が死ぬまで解除されないもの」 「…………」 ホワイトスネイクは静かに絶望した。 何の因果か知らないが、主人と切り離された上にこんな小娘に使われてしまうことが確定したのだ。 こんなことになるなら主人の死と同時に消滅していたほうがいくらかマシだった。 しかも今いる場所は、地球とは全く別の場所らしい。 その証拠に、窓から見える月は赤と青の二つ。 まるでおとぎ話の世界だ。 「……モウ一度確認シタイ。ココハドコダ?」 「あんたもしつこいわね。別の世界から来たとか変なことも言うし……。まあいいわ。 ここはハルゲキニアのトリステイン王国にある、トリステイン魔法学院よ」 「ソシテ使イ魔トハ何ダ?」 「主人を守るのは勿論、主人の目や耳になったり、主人のために秘薬の材料を探したりもするわ。 最後の一つを除けば、スタンドと同じである。 「でもあんたに見えてるものは私に見えないし、おまけに秘薬の材料なんか探せないみたいだし……」 「ソレハイイ。ソシテ私ガ使イ魔ヲ辞メルニハ……死ヌシカナイ。ソウダナ?」 「ええ、そうよ」 実にスガスガしいルイズの解答に、ホワイトスネイクは再び絶望した。 「何よ、その顔! わたしがご主人様だってことに文句でもあるの?」 「アル」 ぴきっ、とルイズのこめかみに筋が走る。 じょ、上等だわ、この使い魔。 この私が、このルイズ・ド・ラ・ヴァリエールがご主人様だってことに文句があるっていうの? お、面白いじゃないの。 「じゃ、じゃあ聞いてあげるわ。わわ、わたしのどこが、不満なのよ?」 まさしく「マジでキレる5秒前」のルイズ。 だがそれを知ってか知らずか、ホワイトスネイクは常識を語るかのように言った。 「適材適所、トイウ言葉ガアル。 優レタモノハ優レタ所ニ、劣ッタモノハ劣ッタ所ニ、トイウコトダ。 ソシテ……私ガ充テラレテモイイ場所ハタダ一ツ。ツマリ私ヲ使ッテイイ人間ハコノ宇宙デタッタ一人。 ダカラオ前ノヨーナ年端モ行イカナイ小娘ニ使ワレルコトガ一番ノ不満ダ」 「だ、誰よ、その『あんたを使っていい人間』ってのは?」 わなわなと震えながらルイズが言う。 「エンリコ・プッチ。 カツテ……ト言ウカ、ホンノ少シ前マデ私ヲ使ッテイタ人間ダ」 「エンリコ・プッチ? 誰よ、それ? それに『使っていた』ってどういうこと?」 「エンリコ・プッチハ聖職者デ優レタスタンド使イ。 『使ッテイタ』トイウノハ、単純ニ私ノ本体ダッタッテコトダ」 「『スタンド使い』? 『本体』? ……あんた、何言ってるの?」 「……ソウカ、マダマトモニ説明シテイナカッタナ」 そう言うと、ホワイトスネイクはふわりと空中に浮き上がった。 「私ガ『スタンド』ト呼バレル存在ダトイウコトハ話シタナ? 『スタンド』トハ精神ガ具現化サレタモノ。 ツマリ私ハエンリコ・プッチノ精神ガ具現化サレタモノダトイウコトダ。 『種族』トイウ括リハ私ニハアマリ合ッテイナイ訳ダナ ソレトコノ具現化ノ元ニナッテイル人間ヲ『スタンド本体』ト呼ブ。 サッキ言イッタ『スタンド使イ』トハスタンドヲ持ッテイル人間ノ総称ダ」 ホワイトスネイクはペラペラと説明する中、ルイズはぽかんとしてホワイトスネイクを見上げていた。 「スタンドニハ『ルール』ガアル。 能力、性能、性質、スタンド本体カラ離レラレル距離……スタンドハ様々ナ『ルール』ニ縛ラレテイル。 故ニ……オイ、聞イテルノカ?」 「……あんた、空飛べたの?」 「正確ニハ『浮ク』ダ。 コノ程度ノコトナラ大概ノスタンドハデキル。 ソレハイイトシテ、私ノ話ハ聞イテイタンダローナ?」 「き、聞いてたわよ! 要するに……っていうか、あんたの話を信じろっていう方が無理よ。 あんたの言ってることが本当なら、あんたは生き物ですらないことになるじゃない」 「ソノ解釈デ合ッテイル」 「それが信じられないってことよ。第一あんた、私と話せてるじゃない。 それにちゃんと痛がったりもするみたいだし……やっぱり『生き物じゃない』ってのは信じられないわ」 「今ハ分カラナクテモイイ。ソノウチ信ジルヨウニナル」 そう言ってホワイトスネイクはふわりと椅子に降りた。 「まあ……今はそういうことにしておいてあげるわ。 他のみんなには『エルフの眷属』だって言っておくから」 「『エルフ』?」 「亜人の一種よ。すごく強力な先住の魔法が使えるの。 それも優秀なメイジ何十人分にも匹敵するぐらいのね」 そこでルイズはいったん言葉を切る。 「それで、結局あんたが言いたいのは『私が優秀な主人じゃないから認めない』ってことでしょ!? 何で私の実力を見もしないうちからそんなこと言うのよ!」 「私ハコレデモ20年人間ヲ見テキテイル。 誰ガ優秀デ、誰ガ無能カハ、見レバ大体分カル。 ダカラオ前ガエンリコ・プッチニ及ブヨウナ器デハナイコトモ分カル」 ぶちん。 本日二度目、ルイズの中の決定的な何かが音を立てて切れた。 「なっ、何よさっきからプッチ、プッチ、って! そんなにそいつがよければそいつのところに行っちゃえばいいじゃない! 何で私のところに召喚されてきたのよ!」 「ソレハ無理ダ」 「何でよ!」 「エンリコ・プッチハ既ニ死ンダ」 「……えっ?」 「私ガコノ目デ確認シテイル」 予想もしなかった答えに、言葉を失うルイズ。 だがそんなルイズに構うこともなくホワイトスネイクは続ける。 「正直、何故自分ガ生キテイルノカ……ソレスラ私ニハ見当モ付カナイ。 ソシテ此処ハ分カラナイコトバカリダ。 何故スタンド本体ト切リ離サレテイル私ガ存在デキルノカ? 何故生キル目的モナイノニ私ハ生キテイルノカ?」 そこでホワイトスネイクはいったん言葉を切る。 「オ前、サッキ私ノ足ヲ踏ンヅケタヨナ?」 「え、ええ……」 「本来ナラ私ハスタンド攻撃デシカダメージヲ受ケルコトナド無インダ。 コレハ私ダケデハナイ。スタンド全テニ共通スルコトダ。 ツマリ……ヒョットシタラ私ハ、モハヤスタンドデスラナイノカモ知レン」 そう言ったきり、ホワイトスネイクは何か考え込むかのように押し黙ってしまった。 ルイズも言葉が見つからず、何も言えない。 ただはっきり分かったのは……ホワイトスネイクが「生き甲斐」をなくしているということ。 その生き甲斐だった人はもうすでに、しかも目の前で死んでしまっていて……。 ルイズにはもちろんそんな経験はない。 それどころか、自分の生きがいとなるようなことさえ見つけていない。 やっぱりこいつの言う通りで、自分はまだ小娘なのかもしれない。 でも―― 「それで……あんたはこれからどうするのよ?」 「自決デモシヨウカト考エテイル」 「ふーん……って、ええええええええええええ!?!?」 「無論本気ダ」 「ちょ、ちょっと! い、いくら生き甲斐がないからって、そんな、何も死ぬなんて!」 「オ前ハ知ラナイカラソンナコトガ言エルノダ。 生キ甲斐ヲ失ウコト、生キル目的ヲ失ウコトガ意味スル本当ノトコロヲナ」 「何よそれ! 全然納得できないわよ!」 「納得スル必要ハナイ。 オ前ノヨーナ小娘ニハ説明シタトコロデ分カラン事ダカラナ」 そう言って、ホワイトスネイクは退屈そうに天井に目を向けた。 ……ななな、なんなのよ、こいつは。 さっきからわたしのことを小娘、小娘って。 しかもなんなのこの態度? まるで私のことをご主人様だなんて思っちゃいないわ。 スタンドだか何だか知らないけど、たかが亜人の分際でいい気になってくれるじゃないの。 今に見てなさい。このルイズ・ド・ラ・ヴァリエールがあんた如きを使い魔にするぐらい当然のメイジだってことを……。 そこまで考えて、ルイズの思考が止まる。 じゃあ、それをどうやって証明するの? こいつに自分を、どうやって認めさせるの? その手段が今の自分には……あるの? ……「今の」? その単語に、ぐるぐると回り続けるだけだった思考が一気に一つにまとまった。そして定まった。 今後の自分の目標、そして目指すところ。 「ねえ、あんた。……賭けをしない?」 「賭ケ、ダト?」 「そう、賭けよ」 「内容ハ?」 ホワイトスネイクが乗ってきた。 その様子にルイズは内心でほくそ笑み、そして少し間をおいてからこう言った。 「1年でわたしが、あんたがご主人様と認められるだけのメイジになれるかどうか、よ」 ふふん、と胸を張るルイズ。 だが。 「真面目ニ聞コウトシタ私ガ馬鹿ダッタ」 そう言ってまたホワイトスネイクは天井に目をやった。 「ちょ、ちょっと! わたしは真面目に言ったのよ? わたしが立派なメイジになれればあんただって私の使い魔になるっていう立派な生き甲斐が出来るじゃないの! そ、それを、『真面目に聞こうとしたのが馬鹿だった』ですって!?」 「仮ニ1年間デ何モ進歩ガナカッタトシテモ……1年間ハ私ヲ使イ魔トシテソバニ置イテオケル。 ソレガオ前ノコノ賭ケニオケルメリットデアリ……強イテ言エバ勝ッテモ負ケテモオ前ハ得ヲスルヨーニナッテイル」 「なっ……」 あっさりと自分の考えを看破され、唖然とするルイズ。 「ソレニ何カ勘違イシテルナラ言ッテヤル。私ハオ前ノヨーナ小娘ニハ何モ期待シテイナイ。 ダカラオ前モ私ニ何カ期待ナンカシナイデサッサト新シイ使イ魔トヤラデモ呼ベバイイ」 「な、ななな、なんですってええええええ!!!」 度重なるホワイトスネイクの高慢な物言いに、ルイズの堪忍袋の緒が三度切れた。 「あ、あんたは! さっきから小娘小娘ってわたしをバカにして! せいぜいあの世でみてなさいよ! あんたがわたしの使い魔にならなかったことを後悔するぐらいのすごいメイジになってやるんだから!!」 「後悔ナドスルモノカ」 「ふん、そんなこと言ってられるのもせいぜい今のうちよ! 偉大なメイジになったわたしを見たあんたはあの世から飛んで戻ってきて、 泣きながら『わたしを使い魔にしてください』ってお願いするんだわ!」 「勝手ニ言ッテロ。私ハ好キニスル」 「逃げる気!?」 「……何ダト?」 「そうよ! あんたは怖いんだわ! わたしが立派なメイジになって、その私に見返されるのが怖いんだわ! この臆病者! 卑怯者! でも逃げるんだったら今のうちに尻尾巻いて逃げるがいいわ! わたしは一人前になった後、その後ろ姿を大声で笑ってやるんだから!」 プッツ~~~ン! 決定的な何かが、また切れた。 だがルイズのではない。 「……言ッテクレルナ、小娘」 ホワイトスネイクのだ。 ホワイトスネイクはそう呟くと、椅子から跳ね上がるようにして空中に上がり、 ルイズの目の前に見せつけるように急降下した。 ドヒュゥンッ! 「きゃあっ!」 「コノ私ガ、コノホワイトスネイクガ、オ前如キ小娘ニ泣キナガラ懇願スルダト? 逃ゲルダト? 面白イナ……コノ20年、私ニ向カッテココマデ言ウ奴ハソウハイナカッタゾ……」 「な、なななな何よ! 何する気よ!」 「オ前ノ賭ケニ乗ッテヤルンダ」 「……え?」 「期限ハ半年。 ソノ間私ハ、オ前ノ言ウ『使い魔』トシテオ前ヲ見極メテヤル。 ソシテオ前ガソノ半年ノ間ニ私ニ認メサセルダケノ者ニナッタナラ、オ前ノ勝チダ。 ダガナレナカッタナラ……」 「オ前ノ『記憶』ヲ貰ッテイクゾ」 地獄の底のような声でそう言うと、ホワイトスネイクは煙のように消えてしまった。 後に残されたのは、ぽかんとした顔のルイズだけ。 「……ひょっとして……うまくいったの?」 「記憶を貰っていく」ということの意味どころか、期限が半年に縮んだことも、まだ分かっていないルイズだった。 To Be Continued...
https://w.atwiki.jp/familiar_spirit/pages/1715.html
ルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエール 享年16歳 嗚呼、美人薄命とはいうけれど恋の一つでもして死にたかった 振り下ろされる巨大な拳を前に、16年間の出来事が走馬灯のように流れていく 恐れ多くも姫殿下の遊び相手として王宮で過ごした日々 魔法が使えなくて馬鹿にされたこと 小船で泣いている所を婚約者に慰められたこと 魔法が使えなくて馬鹿にされたこと ちぃ姉さまの動物に危うくじゃれ殺されそうになったこと 魔法が使えなくて馬鹿にされたこと 魔法が使えなくて馬鹿にされたこと 魔法が使えなくて馬鹿にされたこと 魔法が使えなくて馬鹿にされたこと 魔法が使えなくて馬鹿にされたこと ・・・・・。 何だろう、急に悲しくなってきた 私の人生こんなことでいいのだろうか?いいやよくない!! せめて抗ってやる! 屹然と杖を構え、目の前のゴーレムに向けて魔法を放とうとする。しかし 「「きゃっ!?」」 不意に脇腹に衝撃を受け、続いて頬の辺りにボヨヨンと何か暖かく柔らかな感触 「ちょっとヴァリエール、重いから退きなさいよ!」 「う、うるさい!今退くわよっ!!」 どうやらにっくきツェルプトーの胸に溜まった二つの脂肪の塊がクッションになったらしい いっそそのまま潰れてしまえばよかったのに・・・・いや、その前にさっきの衝撃は何だったのだろう? 「ッ、そうだヴァニラ!」 慌てて振り返るが、そこにあったのは今正にドスンという鈍い音共に地面に減り込むゴーレムの拳 「え、嘘!?」 「まさか私たちを庇って・・・・?」 何ということだろう あまりのショックに地面に膝をつき、呆然と拳の着弾地点を見つめる ツェルプトーが横で何か言ってるが分からない 全然いう事を聞かなくても私の使い魔 平民でも、何だか訳のわからない力を持っていた私の使い魔 あの物を削る力でもあの面積は防ぎきれなかっただろう 私があの時直ぐ逃げていればヴァニラは・・・・ 「ヴァリエール! ルイズ!! あれ見てあれッ!!」 うるさいわね、今感傷に浸ってるんだから邪魔しないで・・・・って何? 「ほらあそこ!」 ツェルプトーの示す先を見ればゴーレムの腕を伝い、壁に開いた穴に入っていく人影が一つ 「何あれ・・・・まさか賊!?」 「ていうかあの穴アナタの失敗魔法で出来た皹じゃないの?」 「なッ!?そ、そんなわけないじゃないの!!」 冗談じゃない、でもまさか・・・・・ってそんなことよりヴァニラ! ガオンッ! 突如、独特な音と共にゴーレムの右腕が崩れ落ちる 「え、何事!?」 「ヴァニラ!!」 私とツェルプトーが声を上げるうちにも、次々とゴーレムの体にボコボコと風穴が穿たれていく 「やっちゃいなさいヴァニラ!!」 このままいけばあのゴーレムを倒せる! そう考えついつい逃げるのも忘れて観戦してしまったが、それがいけなかった 「「え?」」 不意にゴーレムがぐらりと傾ぎ、そのまま私たちの上に大量の土砂が覆いかぶさった To Be Continued...